2024年1月12日

第225回「半導体戦略と他分野への教訓」

異次元の支援
現在、世界各国・地域で異次元ともいえる半導体産業支援が行われている。米国、中国、欧州、台湾、韓国は、日本円にして5兆-30兆円規模の投資を計画し、補助や税制優遇を行うとしている。また日本も、2023年6月に「半導体・デジタル産業戦略」を改定し、国内半導体拠点整備などに2兆円規模の予算を投じ、今後さらに積み増すことが検討されている。

この状況は、米中対立、新型コロナウイルス感染症によるパンデミック(世界的大流行)、ロシアのウクライナ侵攻などによるグローバルサプライチェーン(供給網)の混乱を経験した各国が、経済安全保障の観点で重要な生産基盤を囲い込もうとしたことのあらわれである。

日本の施策も、国内基幹産業が必要とする半導体の安定供給と、半導体産業の国際競争力強化を目指すものである。しかし、最先端から技術的に数世代遅れたわが国の挽回は決して容易ではない。産学官それぞれの役割を最大限に果たしていくことが重要である。

特に今世紀に入ってからの、半導体に関する大学教育の質や量の目減りに起因する若い研究者や技術者の不足を補うために、教育の改革やそれに向けての産業界との協力が急務となっている。

技術基盤の継承
半導体分野以外にも、国の産業構造の変化により大学などの研究室が激減し、中には消滅寸前の状況になっている分野が存在することを忘れてはならない。今回の半導体をめぐる世界の動きは、そうした分野の科学技術の継承や人材供給がこの先絶たれることを許容できるか、慎重に検討する必要があることを教えてくれる。

半導体の場合、技術やノウハウが完全に散逸することを辛うじて免れたが、あと数年遅れていれば再始動の困難さは増していたと考えられる。一方で、例えば金属精錬などの鉱工業分野の技術は、その多くがすでに国外に流出あるいは散逸してしまったとも言われている。

不確実な国際社会情勢下においては、現時点で国として維持する意義が薄いと見なされている科学技術についても、その価値や将来性を把握しておくことが求められるのではないだろうか。科学技術の無自覚な散逸や消滅をこれ以上引き起こさないために、継承や最低限の基盤の維持を国として検討することが今こそ必要だと思われる。

※本記事は 日刊工業新聞2024年1月12日号に掲載されたものです。

<執筆者>
眞子 隆志 CRDSフェロー(ナノテクノロジー・材料ユニット)

東京大学大学院工学系研究科修士卒。電機メーカーにおいて、酸化物材料、携帯燃料電池、半導体実装などの研究開発に従事。19年より現職、ナノテクノロジー・材料分野の研究開発戦略立案を担当。博士(工学)、技術士(応用理学)。

<日刊工業新聞 電子版>
科学技術の潮流(225)半導体戦略と他分野への教訓(外部リンク)