2023年8月25日

第208回「ASEAN地域の科学技術動向⑥ タイ、科技で持続可能な成長」

産業の高度化
タイは東南アジア諸国連合(ASEAN)の中核的な国の一つであり、日本との経済面の結び付きも深い。2014年のクーデター以降、政情はやや不安定であるものの、政策面では20カ年(2018-37年)の長期国家戦略を策定するなど、国の安定と発展に向けた取り組みが進められてきた。

タイでは、科学技術・イノベーション(STI)を原動力として重点産業の高度化を目指す戦略「タイランド4.0」が進行中だ。19年には、その推進に関連する行政部門を一元化し、高等教育・科学イノベーション省(MHESI)が発足した。23年8月に首相に就いたセター氏が発足させる新政権においても、産業競争力の強化は優先課題になるとみられる。

BCG経済
タイのSTI分野における現在の看板政策は「バイオ・循環・グリーン(BCG)経済」である。タイの強みであるバイオ分野を活かし、持続可能な開発を推進する方策として、MHESIが19年に打ち出したものだ。さらに、21年にポストコロナの経済復興と環境対策を同時に加速する政策枠組みとして、国家戦略にも据えられることとなった。

BCG経済では「タイランド4.0」を推進するにあたり、①農業・食品、②医療・ウェルネス、③バイオエネルギー・バイオ材料・バイオ化学、④観光・創造経済の産業に焦点を当て、戦略的に支援する。22年2月にタイ政府は、これら4分野の産業競争力強化に向け7年間で410億バーツ(約1640億円)を措置する「BCG行動計画」を決定した。

BCG経済のコンセプトはタイ国外にも広がりを見せている。22年1月にはタイが主導する形でASEAN・BCGネットワークが発足し、政策調整や研究協力など多層的な官民連携が動き始めた。また、タイが議長国を務めた22年のアジア太平洋経済協力会議(APEC)では、気候変動対策やクリーンエネルギー移行に向けた共通指針として「BCG経済に関するバンコク目標」が採択された。

わが国も、カーボンニュートラルと経済成長の両立に向けた「グリーン成長戦略」や、循環型社会に向けバイオ技術・資源を活用する「バイオ戦略」を推進している。共通性を持つBCG経済の取り組みは要注目の動向となるだろう。

※本記事は 日刊工業新聞2023年8月25日号に掲載されたものです。

<執筆者>
長谷川 貴之 CRDSフェロー(海外動向ユニット)

JST入職後、地域事業、情報事業、国際事業、日本学術振興会出向などを経て、18年より現職。米国の科学技術政策動向調査を担当。

<日刊工業新聞 電子版>
科学技術の潮流(208)ASEAN地域の科学技術動向(6)タイ、科技で持続可能な成長(外部リンク)