第207回「ASEAN地域の科学技術動向⑤ 中国・東南ア、協力深化」
米中の影響拡大
東南アジア諸国連合(ASEAN)は、大国と中立的な立場を取る「バランス外交」を基本方針とする。しかし、米中がASEANに対する経済・安全保障面における影響力拡大を競う中で、加盟国ごとの対中・対米関係が異なり、ASEANは難しいかじ取りを迫られている。
中国は、他国に先駆けASEANと2003年に「戦略的パートナーシップ」を締結し、「一帯一路」構想などを通じ関係を深化させてきた。21年には、技術移転などを含む「包括的戦略パートナー」に「格上げ」した。緊密な関係を強調する中国に対し、ASEANは「格上げ」ではなく広く深い協力として位置づけた。
中国とASEANの協力体制は、経済および情報通信分野で特に顕著である。共に20年を「中国ASEANデジタル経済協力年」とし、スマートシティーなど互いに利益を享受できる分野での協力を示した。中国は、21年に「デジタル中国」戦略を掲げ、デジタル化の加速を推進。具体的な行動計画である「第14次デジタル経済発展五カ年計画(2021-2025)」では、ASEANや欧州連合(EU)との協力を拡大する方針だ。
デジタル経済圏
一方デジタル経済を経済成長の柱とするASEANも21年に「ASEANデジタルマスタープラン2025」を策定した。先進的なデジタルコミュニティー、デジタル経済圏の構築を目指している。
中国通信機器大手のファーウェイは、タイのデジタル経済社会省と連携し、20年に東南アジア初となる第5世代通信(5G)研究施設をバンコクに開設した。22年6月には、タイ政府と産業用5Gでの連携を発表している。マレーシアやシンガポールでも政府や企業との協力を推進している。
中国政府は、海外市場形成のため国内企業に「一帯一路」沿線国へのネットワークサービス提供などを奨励しており、他の中国企業もASEANで存在感を強めている。こうした中国の動きに対抗し、22年に米国は「アジアオープンRANアカデミー」をフィリピンに開設。日本も協力し、通信網を整備する人材育成を目指すとしている。
中国とASEANの密な関係が続くが、日本政府もASEANとの関係を強化している。今年の日本とASEANの友好協力樹立50周年を機に、信頼を原動力とする「日ASEAN経済共創ビジョン」を提唱する考えだ。今後の日ASEAN関係の発展を期待したい。
※本記事は 日刊工業新聞2023年8月18日号に掲載されたものです。
<執筆者>
吉田 裕美 CRDSフェロー(海外動向ユニット)
早稲田大学大学院人間科学研究科博士課程単位取得後満期退学。専門は移民研究および社会言語学。岡山大学で講師、ユニセフ東京事務所、在ノルウェー日本国大使館、国連大学勤務を得て、20年から現職。
<日刊工業新聞 電子版>
科学技術の潮流(207)ASEAN地域の科学技術動向(5)中国・東南ア、協力深化(外部リンク)