第204回「ASEAN地域の科学技術動向④ EU、東南アと連携深化」
多様な協力方針
科学技術・イノベーション(STI)分野における国際協力の重要性が高まる中、欧州連合(EU)は、2021年5月にSTI分野の国際協力戦略文書「研究・イノベーションへのグローバルアプローチ」を発表した。同文書は、各国・地域別の詳細な協力方針を示しており、米国とはデジタルや気候などの課題における連携強化、日本やカナダ、豪州などとはEUの研究プログラム「ホライズンヨーロッパ」を通じた、より緊密な協力の探求を打ち出している(表参照)。
この中で、東南アジア諸国連合(ASEAN)とは、双方の科学技術協力方針を議論する場である「ASEAN-EU科学技術対話」を通じて、その協力を深めるとしている。EUにとってASEANは中国に次ぐ海外直接投資先で、ASEANから見てもEUは中国、米国に次ぐ貿易相手であり、双方にとって連携の重要性は高い。
EUは21年9月に公表した「インド太平洋地域における協力戦略」でも、ASEANとのデジタル分野をはじめとするSTI協力を強調している。こうした背景もあり、近年両者の連携を強める動きが相次いでいる。
22年8月のASEAN-EU拡大外相会議では、23年-27年の「ASEAN-EU戦略的パートナーシップ実行計画」が採択された。EUの地球観測システムの活用を含めた宇宙分野での協力や海洋科学技術分野での共同プロジェクトの模索、双方の研究者の流動促進などを進めるとしている。
インフラ投資
また、EU-ASEAN外交関係樹立45周年に当たる22年12月には、両者の間で初の首脳会談が行われた。EU側はこの会談で、「グローバル・ゲートウェイ戦略」(EU域外にインフラ投資を行う新規取り組み)の一環として、ASEANに対して27年までに官民で100億ユーロの拠出を表明した。事業例としては、メコン川流域での水力発電や海底ケーブルの敷設などが挙げられている。中国の一帯一路構想が先行する中、グリーン移行やデジタル化といった分野でASEANとの協力を強化することで、EUの存在感を高める狙いがある。
本連載で見るように、EUだけでなく米国や中国もASEANとの連携強化に積極的であり、23年がASEANとの友好協力50周年となるわが国としても、協力の深化が期待されよう。
※本記事は 日刊工業新聞2023年7月21日号に掲載されたものです。
<執筆者>
山村 将博 CRDSフェロー(海外動向ユニット)
08年JST入職。国際事業担当、産学連携事業担当を経て、NPO法人STSフォーラムに出向し国際会議運営業務に従事。18年11月より現職。EU、ASEANの動向調査を担当。
<日刊工業新聞 電子版>
科学技術の潮流(204)ASEAN地域の科学技術動向(4)EU、東南アと連携深化(外部リンク)