2023年7月14日

第203回「ASEAN地域の科学技術動向③ 米・東南ア、イノベ協力」

2021年のバイデン政権発足以来、米国は国際連携の再構築と強化を進めてきた。東南アジア諸国連合(ASEAN)への関与強化はその顕著な例で、22年11月、米国はそれまでの協力関係を「格上げ」するものとして、「米ASEAN包括的戦略パートナーシップ」を締結した。

多岐分野で深化
「包括的」の名の通り、同パートナーシップは経済や安全保障といった従来の協力分野にとどまらない、多岐にわたる分野での協力を深化させるものと位置付けられている。医療や気候などのほか、技術やイノベーションに焦点を当てた協力も柱の一つとなっており、マイクロエレクトロニクス、エネルギー、気象、海洋など戦略的な協力分野が並んでいる(図)。

象徴的な事業
中でも目立つのは、デジタル分野での協力が多く盛り込まれている点である。スマート製造やブロックチェーンなどの技術開発のほか、人材育成やインフラ整備といった基盤作りでも協力する方針だ。

こうしたデジタル分野での協力の一つとして、象徴的な協働事業である「米ASEANスマートシティ・パートナーシップ(USASCP)」をさらに強化することも挙げられている。これは18年にASEANが立ち上げた「ASEANスマートシティ・ネットワーク(ASCN)」の活動に、同年から米国が参画しているものだ。 ASEAN域内の主要26都市を対象に、情報技術を活用して都市の利便性や持続可能性を向上させる取り組みを共同で実施している。

米国は国務省など七つの連邦政府機関による体制を組み、政府一丸でUSASCPを推進している。研究開発面では国立科学財団(NSF)が関連プログラムを通じて基礎研究と実証試験を支援している。

例えば、自転車専用レーンに圧電素子を敷設し、走行で発電するエネルギー供給システムの構築(マレーシア・クアラルンプール市)や、交通監視カメラとクラウドAI(人工知能)を組み合わせた交通管理シミュレーターの開発(ベトナム・ホーチミン市)といったプロジェクトが展開されている。

日本も19年からASCNへの協力を推進しており、優良事例の共有や官民のネットワーク拡充などに取り組んでいる。ASEAN地域の発展に向けたダイナミックな国際連携が活発に進む中、わが国の存在感がさらに高まっていくことを期待したい。

※本記事は 日刊工業新聞2023年7月14日号に掲載されたものです。

<執筆者>
長谷川 貴之 CRDSフェロー(海外動向ユニット)

JST入職後、地域事業、情報事業、国際事業、日本学術振興会出向などを経て、18年より現職。米国の科学技術政策動向調査を担当。

<日刊工業新聞 電子版>
科学技術の潮流(203)ASEAN地域の科学技術動向(3)米・東南ア、イノベ協力(外部リンク)