2023年7月7日

第202回「ASEAN地域の科学技術動向② 存在感増す東南アの大学」

成長目覚ましく
東南アジア諸国連合(ASEAN)各国の研究開発費総額は小さく、首位のタイ(約147億ドル、2019年)でも日本の12分の1程度である。他方、シンガポールが人口当たりの研究者数やハイテク製造業の割合などのイノベーション指標で欧米並みの水準を誇るほか、こうした指標面において直近10年のマレーシアやタイの成長も目覚ましい。

研究開発を支える人材育成を担ってきた各国の大学も近年存在感を増しており、学界での評判や論文被引用数などに基づき評定される英国QS社「大学ランキング2024」では、シンガポール国立大学(NUS)がアジア最上位に位置し、マレーシア、タイ、インドネシアの大学も日本の上位校に比肩している。

中でもNUSは、05年の大学法人化以降自律性の高い経営が可能となり、外部から資金を得やすくなったほか、米国大学などとの国際共同研究プログラムの展開や優秀な留学生の受け入れなど「アジアにおけるグローバルな大学」を追求したことが飛躍につながったとされる。

イノベ推進
ASEAN各国では、さらなる経済・産業成長に向けて、新産業やイノベーションの創出が重要視されており、その担い手としてスタートアップへの期待が大きい。こうした背景から、各大学でもスタートアップ支援のための多様な取り組みを展開している。

例えばNUSの起業支援機関「NUS Enterprise」は、学生を海外企業でのインターンシップに送るプログラムやスタートアップへのオフィス提供、資金調達支援などを通じ起業家を数多く輩出してきた。21年3月には、特許検索・分析ツール開発企業「PatSnap」が、同機関の支援を受けた企業として初めてユニコーン企業(企業評価額10億ドル以上の非上場企業)となり話題になった。同社にはソフトバンクも出資している。

また、マレーシア・プトラ大学(UPM)のイノベーションラボ「InnoHub」は、同国におけるテクノプレナー(技術とビジネスの両方に精通する起業家)育成に貢献している。同ラボによる起業家教育や資金調達支援などを受け、農業、バイオテクノロジー、工学、食品などの分野で80社以上のスタートアップが設立された。

イノベーションエコシステムの形成において大学の果たす役割は大きく、わが国が海外戦略や地域振興策などを検討する上でも、ASEAN各国の実態を注視していくことは大いに参考になるだろう。

※本記事は 日刊工業新聞2023年7月7日号に掲載されたものです。

<執筆者>
山村 将博 CRDSフェロー(海外動向ユニット)

08年JST入職。国際事業担当、産学連携事業担当を経て、NPO法人STSフォーラムに出向し国際会議運営業務に従事。18年11月より現職。EU、ASEANの動向調査を担当。

<日刊工業新聞 電子版>
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