2023年6月30日

第201回「ASEAN地域の科学技術動向① 科技イノベ 東南ア成長」

今年は日本と東南アジア諸国連合(ASEAN)との友好協力50周年の節目にあたる。この半世紀で同地域の競争力や人材流動性が高まる中、科学技術・イノベーション(STI)における日・ASEAN連携の重要性は増している。本稿では政府間組織としてのASEANのSTI政策の概況を紹介する。

域内外で協力
ASEANの意思決定は、加盟国の協議を通じた全会一致によりなされる。STI政策については、「科学技術・イノベーション大臣会合」による政策決定の下で、「科学技術・イノベーション委員会(COSTI)」が中心となって推進している。域内だけでなく、域外とも活発に連携しており、日本を含む八つの国・地域との協力枠組みが樹立されている。

個々の施策は、バイオ、持続可能エネルギー、情報科学など分野別の小委員会を通じて実施される。各分野の優先課題には、食品製造、バイオ燃料、ロボティクスなどASEANが強みを持つ技術が多く見られる。

10年の行動計画
ASEANは1989年から科学技術政策を策定・更新してきたが、2015年の大臣会合で、初めて「イノベーション」を冠した「科学技術・イノベーション行動計画2016-25」を採択した。刷新の背景には、ASEANの競争力・持続可能性・包摂性の向上にはイノベーションが不可欠との加盟国間の議論があった。

その認識は、重点として掲げる①セクター間連携強化によるエコシステム構築、②人材の流動性・連携向上と女性・若者の参画、③域外国とも連携した企業支援や競争力向上、④市民の意識向上とSTI文化の醸成、の4項目にも反映されている。

計画実施のための予算は、加盟国による費用分担や、域外からの資金提供によって措置される。加えて、ASEANとして設置する基金もある。その一つ「科学技術・イノベーション基金」では、目標額として、加盟国がそれぞれ100万米ドルを拠出することが合意されている。

計画期間は残り2年半であるが、これまでの実績を踏まえた政策評価や、次期計画に向けた検討も始まっている。

例えば22年の大臣会合では、持続可能な開発目標(SDGs)や低炭素経済に関する観点を次期計画に盛り込むことが議論された。ASEANがSTIを成長のカギと位置付ける中、今後の政策の展開が注目される。

※本記事は 日刊工業新聞2023年6月30日号に掲載されたものです。

<執筆者>
長谷川 貴之 CRDSフェロー(海外動向ユニット)

JST入職後、地域事業、情報事業、国際事業、日本学術振興会出向などを経て、18年より現職。米国の科学技術政策動向調査を担当。

<日刊工業新聞 電子版>
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