2023年3月31日

第189回「中国、大学発の起業支援」

2022年11月、日本政府は「スタートアップ育成五カ年計画」を策定し、同計画は大学発のスタートアップ支援にも焦点を当てている。ここでは海外の事例として、近年の中国の大学発スタートアップ政策動向を紹介する。

「双創」を促進
中国は、「大衆創業・万衆創新(双創)」―多くの人が起業し、多くの人がイノベーションに携わる―を掲げ、イノベーション創出のための環境の構築や起業を促進する施策を実施してきた。第14次五カ年計画(21-25年)においても、「産学研用」(企業・大学・研究機関・ユーザー)の融合した技術イノベーションシステムの形成、金融支援制度の改善、「双創」モデル拠点の最適化や失敗に寛容なメカニズムを整備するとしている。第13次五カ年計画期間(16-20年)は、年平均675万社、21年には904万社が起業したとされる。

「2021中国大学創企投資発展報告書」(融資を受けた記録のある中国全土の重点大学の関連企業479社対象)によれば、大学発の起業は14年から17年に最も盛んとなり、「双創」に沿った施策に加え、14年のモバイルインターネットによる起業ブーム、株式投資市場の急成長などがその要因とされる。分野別にみるとITサービスと医療・ヘルスケアが抜きんでて多い(図)。

18年以降は、大学の起業ブームがある程度収束し、市場が安定期に入ったこと、新型コロナウイルス感染拡大の影響などで資金確保が困難になり起業が減少したとされる。21年に市場は回復基調となり、研究者の起業や研究成果の実用化に注目が集まっていると分析している。

兼職中も保障
起業人材支援に関し、20年に中国政府における人力資源・社会保障部は「公的機関に所属する研究者のイノベーション・起業のさらなる支援・奨励に関する指導的意見」を策定し、研究者がイノベーション・起業のために兼職・休職しやすいよう、兼職中も本職の給与・社会保険などは変更なく、昇進や機関内ポストへの申請の権利も維持できるなどとした。

また21年に国務院は、「大学生のイノベーション・起業を一層支援する指導意見」を策定し、起業時の資金などの援助、イノベーション・起業の能力向上のための人材育成コースの整備などを打ち出した。

冒頭の日本政府の五カ年計画において、研究者が大学と企業などの双方と雇用契約が結べる「クロスアポイントメント制度」の導入を促進するとしている。中国の研究者の起業支援策は日本の支援において参考になる点もあるのではないだろうか。

※本記事は 日刊工業新聞2023年3月31日号に掲載されたものです。

<執筆者>
吉田 裕美 CRDSフェロー(海外動向ユニット)

早稲田大学大学院人間科学研究科博士課程単位取得後満期退学。専門は移民研究および社会言語学。岡山大学で講師、ユニセフ東京事務所、在ノルウェー日本国大使館、国連大学勤務を得て、20年から現職。

<日刊工業新聞 電子版>
科学技術の潮流(189)中国、大学発の起業支援(外部リンク)