第186回「次世代AI さらなる進化」
チャットGPT
オープンAIから公開されたチャットGPTのアクティブユーザー数が、史上最速2カ月で1億人を超えたという。対話という分かりやすいインターフェースで、多種多様な質問・指示に対して、まるで専門家のような回答を返してくれる。しかも特定分野に限らずあらゆる分野の知識を持っているように見える。これを活用することで、さまざまな知的作業のプロセスが一変し得る。
このような対話システムの裏で動いているのは、人が一生かかっても読めない量の情報を学習した「基盤モデル」と呼ばれる超巨大な深層ニューラルネットAIである。これが社会・産業・科学・生活に変革(効用と混乱)をもたらす新しい道具になることは間違いない。ただし、これは人間離れした人工知能(AI)だと言えるだろう。
AI研究は元来、人の知能を理解・解明したいという動機を含んでいる。しかし、人の脳の消費エネルギーはわずか20ワット程度であるのに対して、基盤モデルは1回の学習に億円規模の計算費用が必要だといわれ、多大な電力を消費する。また、膨大な量の学習データから統計・確率に基づく回答を出すが、必ずしも意味・常識は理解できておらず、もっともらしく見える誤答を返すことがある。
人との親和性
一方で、人の知能に関する理解の進展とそれを踏まえたAI研究も進んでいる。その代表として「二重過程モデル」に基づくAI開発がある。これは人の思考・意思決定は、即応的なシステム1と熟考的なシステム2から成るというモデルである。従来の深層学習はシステム1に対応し、システム2までカバーするAIを実現しようという取り組みである。
もう一つは乳児・幼児の成長過程における認知発達や言語獲得を模擬する「発達・創発モデル」である。モデルから予測された状況と実際に起きた状況との差分を小さくするように学習していく予測誤差最小化が基本原理として注目されている。環境・他者など外部との相互作用を前提とし、身体性を持ったAI・ロボットの研究開発が進められている。
人間離れした基盤モデルの発展だけでなく、人と親和性の高い知能モデルとの融合が、次世代AIの方向性として注目される。
※本記事は 日刊工業新聞2023年3月3日号に掲載されたものです。
<執筆者>
福島 俊一 CRDSフェロー(システム・情報科学技術ユニット)
東京大学理学部物理学科卒、NECにて自然言語処理・情報検索の研究開発に従事後、2016年から現職。工学博士。11-13年東大大学院情報理工学研究科客員教授、情報処理学会フェロー。
<日刊工業新聞 電子版>
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