2023年2月3日

第182回「日米、科技協力を強化」

去る1月13日(米国時間)、ホワイトハウスで岸田文雄首相とバイデン大統領の首脳会談が行われた。日米同盟の一層の強化が主要な目的と位置付けられ、外交や防衛面での国家安全保障が議題の中心となった。加えて、広範な安全保障課題への取り組みの観点から、科学技術面での2国間協力も取り上げられた点は注目される。

共同で研究開発
基軸となっているのは、2021年に締結された「日米競争力・強靱性パートナーシップ」だ。このパートナーシップの下で、重要・新興技術の育成を含む経済安全保障への取り組みが進んでいる。代表例である次世代半導体分野では、22年12月に日米が連携する研究開発組織が設立され、国の研究機関や大学、Rapidus(ラピダス、東京都千代田区)などが参画している。

人工知能(AI)やバイオ、量子などの分野でも日米協力の動きが活発化している。特に量子科学技術は、米国が22年に12カ国を集めた政策会合を開催するなど国際協力を主導しているが、その先駆けは19年に日米が取り交わした「量子協力に関する東京声明」であり、日本に対する米国の期待の高さがうかがえる。

多国間連携 加速
他方で、基盤的な科学技術力の強化に向けて、日米を含む多国間連携を進めようという動きも顕在化しつつある。21年に豪州とインドを加えた4カ国(クアッド)の枠組みで開始されたプログラムは、各国の学生が米国の大学院で科学技術分野の学位を取得するための奨学金を支援する。22年12月には第1期生として日本からも25人が選ばれた。

さらに岸田首相は米国での講演で、国際共同研究や若手研究者の人材育成を強化するため約500億円の大型基金を立ち上げ、国際頭脳循環の中核拠点として「グローバル・スタートアップ・キャンパス」構想を推進すると発表した。こうした基金や拠点作りは、一過性のプロジェクトにとどまらない、より戦略的な国際協力の土台を構築しようとするものと言えるだろう。

米中対立やロシアのウクライナ侵攻など、国際環境が大きく変化する中、グローバル課題への対処、経済安全保障の確保、科学技術力の向上など多様な文脈において、国際協力の在り方が問い直されている。今年の先進7カ国(G7)議長国を務める日本はこれを好機とし、米国や主要国のみならず国際社会全体に対して、新時代を見据えた、わが国ならではのビジョンを示したい。

※本記事は 日刊工業新聞2023年2月3日号に掲載されたものです。

<執筆者>
長谷川 貴之 CRDSフェロー(海外動向ユニット)

JST入職後、地域事業、情報事業、国際事業、日本学術振興会出向などを経て、18年より現職。米国の科学技術政策動向調査を担当。

<日刊工業新聞 電子版>
科学技術の潮流(182)日米、科技協力を強化(外部リンク)