2023年1月20日

第180回「仏、研究予算増 他国を意識」

投資比率3%へ
フランス政府の2023年の一般会計当初予算が、先月下旬に国会で可決・成立した。総額5770億ユーロのうち、「研究・高等教育費」は前年比5.4%増の308億ユーロとなり、21年から10年間、研究予算を毎年増額していくとした中期計画が反映されている(額は1億ユーロ未満を四捨五入している)。

フランス政府の予算は単年度主義で、執行は1-12月である。国策上重要な3予算については、年により大幅に変動しないよう、中期計画を法律として成立させて一定額を担保する独自の工夫を施している。研究予算もその一つである。

研究予算の増額分については、政府は公的研究機関の競争的研究開発資金、大学や研究機関の助成、人材育成などにあてるとともに、「国内総生産に占める研究開発投資比率3%」を達成する足がかりにしたい考えだ。

なお、研究・高等教育費とは別に、いわゆるデュアルユースなどの防衛関係の研究開発予算が、「防衛費」のなかにある。
詳細な額は示されていないものの、23年は「約80億ユーロ」で、「約70億ユーロ」だった前年より約10%増加している。

「優先研究」注目
これらとは別に、22年に本格始動した「フランス2030」という5カ年の投融資計画もある。これは、産学官の連携研究やその技術の社会実装支援を主な目的とした、官民共同のプロジェクト投融資である。政府負担分は一般会計で用意され、初年の22年は70億ユーロ、今回23年は61億ユーロが計上された。

この「2030」は、10年に始まった前身の政策投資プログラムを事実上改称して受け継いだものだが、いわゆるアカデミアが関係する取り組みとしては「優先研究プログラム」(PEPR)が注目に値する。

PEPRは、他国との技術競争や経済的利益などの点で有望な研究を公募で選ぶ”政府肝いり”の支援だ。公的研究機関を拠点とし、複数の機関から研究者が集まるケースが多い。すでに計40件が採択され、22億ユーロの投資先が決まっている。複数の機関から人材が集まる仕組みは古くからあるが、特定の分野・領域を「優先」と銘打って資金を重点配分することから、政府が他国との競争をこれまでになく意識しているのは明らかで、その成否が中長期的に注目される。

※本記事は 日刊工業新聞2023年1月20日号に掲載されたものです。

<執筆者>
内田 遼 CRDSフェロー(海外動向ユニット)

慶応義塾大学経済学部卒業。読売新聞記者などを経て、22年1月より現職。主にフランスの科学技術イノベーション政策の調査を担当。

<日刊工業新聞 電子版>
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