第179回「「総合知」で情報攻撃防御」
不安あおる
メールやインターネットで情報を受け取る私たちは、日々、情報攻撃にさらされている。実在する組織を装って個人情報を得ようとするフィッシングの報告は年々増加している(フィッシング対策協議会)。また、会員制交流サイト(SNS)の普及により、誰もが簡単に情報を発信できるようになったが、一方で、虚偽の情報が含まれるフェイクニュースにより世論が誘導されたり、真偽が定かでない情報などが大量に拡散するインフォデミックにより人々の不安があおられたりする問題も起こっている。最近では、新型コロナウイルス感染症に関する真偽が定かでないさまざまな怪しい情報がSNS上に拡散し、人々に不安を与えた。
このような状況に対して、近年、注目を集めているのがコグニティブセキュリティーである。コグニティブセキュリティーは、認知を意味するコグニティブとセキュリティーを合わせたものであり、人間の認知や行動、意志決定に悪影響を与える情報攻撃から個人や組織、社会を守る。その実現には、「第6期科学技術・イノベーション基本計画」で掲げられ、多様な分野の知見を合わせて新しい知を創出する「総合知」がカギとなる。
人・社会を守る
コグニティブセキュリティーでは、図に示すように、フィッシングメールなどを受け取ったときの人の認知や行動、意志決定の原理を理解することが基礎となる。また、防御策の構築では、攻撃の観測・分析に基づく情報攻撃の検知技術などに加えて、利用者への効果的な警告方法やセキュリティーリテラシー向上のための教育プログラム、法制度の検討も必要である。
そのために、情報システム技術に加えて心理学や教育学、法学などの人文・社会科学の知見を合わせた「総合知」により研究開発を進めることが重要である。米国では、国防高等研究計画局(DARPA)が、フィッシングやフェイクなどによる情報攻撃の検知技術など、コグニティブセキュリティーに関わる研究開発を既に推進している。
社会のデジタル化が進み個人を狙った攻撃が日常化する中で、わが国でもコグニティブセキュリティーにより安心・安全なデジタル社会を実現することが必要であろう。
※本記事は 日刊工業新聞2023年1月13日号に掲載されたものです。