2022年11月18日

第173回「中国、「引導基金」で新興支援」

イノベ型国家へ
中国では10月の中国共産党大会で習近平指導部が3期目に入った。この党大会で習総書記は、自立した高度な科学技術でイノベーション型国家になることを目標に、「科学教育興国」「人材強国」「イノベーション駆動型発展戦略」を強調した。具体的な政策は主に2016年発表の「国家科学技術イノベーション計画」から継続的に進められ、財政面では競争的研究資金に加え、三つの「技術創新引導基金」(技術イノベーション政府誘導ファンド、表)で科学技術型新興企業を支援している。

「引導基金」とは、省庁が発起し、国有企業などに指示して設立する官民ファンドである。金融機関などの出資を受けて企業に直接出資するケースと、別途「サブファンド」を設けて、地方政府や投資会社などの出資を仰ぎ企業に出資するケースがある

一つ目の国家科技成果移転政府引導基金は、科学技術部(省)と財政部(省)が出資し、科学技術成果の移転および応用によるイノベーション主導の成長を目指し、昨年末時点36のサブファンド経由で624億元(1元=約20円)がシーズ期、スタートアップ期にある科学技術型中小企業の支援に投じられている。

国有企業の国家開発投資集団が出資する国家新興産業創業投資政府引導基金は、主にベンチャーキャピタル経由でスタートアップ企業5965社に2100億元出資している。

財政部ほか国有企業が出資する国家中小企業発展基金は、サブファンド経由でシーズ期、スタートアップ初期の中小企業に800億元超出資している。

発展の動向注視
国務院で主要政策を束ねる国家発展改革委員会は、こうした中央政府の引導基金のほか、地方政府の引導基金、税制優遇などで16-20年の起業数が年平均675万社に大幅に増えたと、政策の成果を強調している。

なお、政府引導基金は02年に大学発ベンチャー企業が多い北京市中関村が設けた基金が始まりとされ、その後科学技術関連だけでなく、先進製造業や半導体産業など国家戦略に基づく産業支援策など、昨年末現在1988基金、投資額6兆1600億元まで拡大している。

今後、成長率鈍化、土地使用権販売低迷による地方財政の悪化に加え、政治主導の管理などによる研究活動への影響で、イノベーション駆動型の発展がどのように進むのか注目する必要がある。

※本記事は 日刊工業新聞2022年11月18日号に掲載されたものです。

<執筆者>
田子 智久 CRDSフェロー(海外動向ユニット)

同志社大学経済学部卒業後、旭化成入社。感光性樹脂のマーケティング、電子材料の台湾・中国での製造販売会社の設立・経営を経て、電子材料の営業部長・事業部長(理事)などを歴任。21年より現職。

<日刊工業新聞 電子版>
科学技術の潮流(173)中国、「引導基金」で新興支援(外部リンク)