2022年10月7日

第167回「科学の発展「人脈」重要」

信頼関係築く
日本の研究力の低下が言われており、最近も、注目度が高い論文のなかで日本の比重が落ちていることが話題となった(図)。現在、その解決法として大学改革やファンデイングのあり方などが活発に議論されている。こうした目に見える「仕組み」が重要であることに異論はないが、ここでは少し異なった視点、すなわち人脈、いわばコネとツテの意義について考えてみたい。

国外の科学者の世界では個々の自己が特に尊重されるが故に、彼らと接するときには相手を尊重しながらも自己を堂々と主張していくことが大切である。そこでは、自分の専門分野のみではなく、関連分野から科学そのもの、あるいは、時には周囲を取り巻く哲学、文学、芸術、などにも触れることによって信頼関係を構築することができよう。“友を見つける者は宝を見つける”のである。

研究業績は科学者の命運を握るが故に、論文発表においても人脈は重要である。論文が査読を経て、あるジャーナルに掲載されるかどうかの瀬戸際になると、著者と編集者・査読者の間の論争が生じるが、そこでも相互の信頼関係が大きな要素となる場合が多い。学会発表においてもいかに個性あふれるプレゼンテーションや議論をするか、も重要である。

このようなとき、普段から人脈を形成する過程で身につける論争の仕方などが結果に大きな影響を及ぼすのではないか。

この点、日本の科学者の多くがかなりの損をしているのではないかと思われる。無論、これは英語の得手不得手が大きな問題ではない。いわば、人脈形成を通して得られる暗黙知のようなものであろう。

留学で育む
世界で通用する人脈を育むのに最も有効なのは留学である。留学は単に知識や技術を取得するためではなく、異文化に接することが学問的発想などにも大きく貢献する。また、留学中にできた友人たちと築いた信頼関係(人脈)は一生続くであろう。

そしてその後にそれぞれが地位を築いたとき、相互の信頼関係に基づいたさまざまな支援や連携などが可能となり、この国際連帯の人脈が、時に研究を加速させ、ひいては日本の科学の国際的発展につながる。

科学が多様化・巨大化している現在、国際的な共同研究の構築・推進の原動力にもなるであろう。

また、この文脈において、これからの日本では科学技術外交がますます重要になることを考えたとき、今の日本ではそれを担う人材が育っているだろうか、案ずるところでもある。

※本記事は 日刊工業新聞2022年10月7日号に掲載されたものです。

<執筆者>
谷口 維紹 CRDS上席フェロー(ライフサイエンス・臨床医学ユニット)

スイス・チューリヒ大学大学院博士課程修了。がん研究会がん研究所部長、大阪大学、東京大学教授などを歴任。東京大学名誉教授。米国科学アカデミー、米国医学アカデミー外国人会員。専門は分子免疫学。

<日刊工業新聞 電子版>
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