2022年9月23日

第165回「米、対中優位へ重要技術投資」

半導体・科学法
気候変動や新興感染症などのリスクに加え、ロシアのウクライナ侵攻など国際情勢が不安定化する中、各国は重要技術の確保に動き出している。科学技術大国とされる米国も例外ではなく、先端技術を支える半導体の製造シェアで近年中国に逆転されるなど、危機感を強めている。

現状を打開する一手として、2022年8月、米国は「半導体・科学法」を成立させた。同法は米国の産業競争力や国家安全保障上の優位性を確保するため、その名のとおり半導体生産と科学研究に総額2500億ドル規模の巨額投資を図るものである。

法律の柱の一つ「半導体」関係は、半導体製造施設への補助金や産学官連携の研究開発プログラムのほか、製造投資に係る税額控除など産業支援策を中心に約800億ドルを計上。インテルがオハイオ州で建設中の大型工場にも本補助金がつぎ込まれる見通しだ。さらに人材育成や国防プログラム、国際連携のための資金も盛り込まれている。バイデン大統領はこれらの政策調整を行う閣僚会議を設置、政府一丸で推進する姿勢を見せている。

もう一つの柱である「科学」関係においては、国立科学財団(NSF)やエネルギー省などの連邦機関の研究・イノベーション活動の拡大に向け、1700億ドル規模の予算枠が認可されている。実際の予算は毎年度の議会審議によって決まるため、直ちに増額されるわけではないが、本法は資金以外にもこれら機関に多くの政策的な枠組みを定めている。

注目の一つは、NSFが今年3月に新設した技術・イノベーション・パートナーシップ(TIP)局の重点分野として、人工知能(AI)や量子などの重要技術や国家・社会的な重要課題が列挙されたことだ。大学などにおける幅広い分野の基礎研究支援を中核としてきたNSFに、より戦略性の高い研究開発を求めるものと言える。

日本にも影響
半導体サプライチェーン(供給網)の再編など、本法は日本へも少なからず影響を与えそうだ。科学技術の面では、先進半導体の日米共同開発に向け、今年5月の首脳会談を機にタスクフォースが立ち上げられた。また、6月に閣議決定された「統合イノベーション戦略2022」では「先端科学技術の戦略的な推進」を柱の一つとしている。

国際動向を捉えつつ、わが国の強みを確立していくことが重要である。

※本記事は 日刊工業新聞2022年9月23日号に掲載されたものです。

<執筆者>
長谷川 貴之 CRDSフェロー(海外動向ユニット)

JST入職後、地域事業、情報事業、国際事業、日本学術振興会出向などを経て、18年より現職。米国の科学技術政策動向調査を担当。

<日刊工業新聞 電子版>
科学技術の潮流(165)米、対中優位へ重要技術投資(外部リンク)