2022年9月16日

第164回「研究評価改革 世界に拡大」

質とインパクト
2022年初頭から欧州を中心に検討されてきた研究評価改革の合意文書が7月に発表された。これは、欧州委員会(EC)と欧州大学協会、そしてサイエンスヨーロッパ(研究助成・実施機関から構成)が核となり、欧州内外の40カ国以上、350以上の機関とともにまとめたものである。今後さらに多くの機関からの署名を募り、連合体を組織して、研究評価を改革していく。

合意文書の冒頭で確認しているのは、研究、研究者、研究機関の評価において、研究の質とインパクトを最大化するような多様な成果、実践、活動を把握することの重要性である。そのために、評価はピアレビュー(研究者同士の評価)を中心とする定性的(質的)な判断に基づくべきであり、定量的な(数値化された)指標はそれを支えるために責任をもって用いるとしている。また、インパクトについても、科学的、技術的、経済的、社会的なものや、短期から長期のものまで、分野や研究のタイプによって多様であることを強調している。

不適切な定量
研究評価の際に定量的な指標を乱用すべきでないことは、これまでも繰り返し確認されてきた。特に、学術誌ごとに被引用回数に基づいて計算されるジャーナル・インパクト・ファクター(JIF)については、掲載された個々の研究の価値を示すものでないなどの限界があるにもかかわらず、研究評価において多用されていることが問題視されている。

12年のアメリカ細胞生物学会でのサンフランシスコ研究評価宣言(DORA)では、雇用、昇進、助成の際にJIFを含む学術誌ごとの定量的指標を用いないことが合意され、最近になって日本からもDORAへの署名が増え始めている(医薬基盤・健康・栄養研究所や生物科学学会連合など、現在10機関)。

欧州での今回の合意文書では、JIFだけでなく、論文数、特許出願・登録数、それらの引用数、獲得資金などの定量的な指標全般について、不適切な使用をやめるべきだとしている。こうした定量的な指標への偏重によって、研究の協働、公開性、社会との関わり、多様な研究者が活躍する機会などが阻害されるという問題意識が共有されている。

今回の合意文書がこれまでのものと異なるのは、連合体を組織し、それぞれの機関で研究評価を改革することまでを考慮している点である。

すでにDORAや国際学術会議(ISC)も参加を表明しており、欧州だけにとどまらない、国際的な潮流になりつつある。

※本記事は 日刊工業新聞2022年9月16日号に掲載されたものです。

<執筆者>
住田 朋久 CRDSフェロー

東京大学大学院総合文化研究科博士後期課程単位取得退学(科学史)。日本科学未来館、東京大学大学総合教育研究センター特任研究員、丸善出版、東京大学出版会などを経て、20年より現職。

<日刊工業新聞 電子版>
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