2022年8月12日

第159回「OECD科技政策 持続可能な社会経済への移行」

システム再構築
経済協力開発機構(OECD)は38カ国が加盟する世界最大のシンクタンクで、経済、産業、環境、教育、科学技術などの広範な政策領域で分析・提言を作成し世界標準を作る「スタンダード・セッター」と言われる。そのOECD・科学技術政策委員会(CSTP)が、昨年からOECD「科学技術政策2025」イニシアチブを進めている。

この野心的なイニシアチブの課題設定は次の通り。過去30年、各国の科学技術・イノベーション(STI)支援の根拠は経済競争力だった。今後はこれに加えて、持続可能性、包摂性、強靱性、安全保障が重要な優先順位となる。国連の持続可能な開発目標(SDGs)やコロナパンデミック、気候危機、人工知能(AI)など新技術の発達、安全保障上の危機を受けて、各国が「持続可能な社会経済への移行」に総合的に取り組むため、STI政策とシステムを再構築する必要がある。大きな挑戦だがパンデミックはその機会を与えている、というものである。

戦略的参画を
2024年に閣僚会議を開催し、次の10年のSTI政策とシステムの変革、ビジョンと行動計画「OECD宣言」をまとめる予定である。このためにまず次の四つのレベルを連関することが重要だとする。①エネルギー、環境、食料、健康医療、モビリティーなどの大規模社会経済システムの移行。そのために、②STIエコ・システムの変革、③STI政策とガバナンスの変革、④戦略的インテリジェンスの強化。

検討項目は多岐にわたる。①CSTPの近年の活動(技術ガバナンス、ミッション志向政策、学際共創、研究インテグリティー、科学的助言、研究資金制度、研究インフラなど)を、社会経済の移行に向けて統合する。②産業、エネルギー、環境、農業、健康などの他の政策領域や省庁と連携・調整する。新しい政策手段・人材の能力を開発する。先見性と予見的ガバナンスを重視する。③多様な政策立案者との対話を通じて、実践的なガイダンス、分析支援ツールと指標開発、知識基盤の整備、ロードマップを開発する。④多国間協力を促進するなどである。

中間まとめを“STI Outlook 2023”(23年1月)で公表するため、現在検討が急ピッチで進んでいる。欧米各国、欧州連合(EU)、韓国などはこのプロセスに戦略的に参画しているが、わが国は縦割り組織の下で総合的な対応ができていない。

わが国抜きで新しい時代のSTIシステムや産業、環境政策の国際標準、ルールメーキングが進みかねない。関係府省が産学と連携して、アジェンダ設定、議論を主導できる人材、組織とインテリジェンスの強化が必須である。

※本記事は 日刊工業新聞2022年8月12日号に掲載されたものです。

<執筆者>
有本 建男 CRDS上席フェロー

京都大学大学院理学研究科修士課程修了、科学技術庁入庁。政策研究大学院大学客員教授、国際高等研究所チーフリサーチフェロー、科学技術外交連携諮問委員、OECDプログラム運営委員、内閣府自動運転プロジェクトサブプログラムディレクター。

<日刊工業新聞 電子版>
科学技術の潮流(159)OECD科技政策 持続可能な社会経済への移行(外部リンク)