2022年8月5日

第158回「仏、新興製造業に23億ユーロ」

設備投資強化
2022年に入り、フランスが製造部門のスタートアップ支援に本腰を入れ始めた。1月、政府が23億ユーロ規模の支援計画を発表した。官民双方から投資を強化し、電子機器や化学製品の工場建設といった大型の設備投資の支援を手厚くすることで、国全体の生産力を中長期的に高めたい考えだ。

今回の計画で目玉となるのは「特に優れた技術を持つ工場へのエクイティ投資(10億ユーロ)」「初めて工場建設をするプロジェクトへの融資(5億5000万ユーロ)」―などだ。支援のための申請や手続きを簡素化することも重視している。

もともとフランス政府はスタートアップ支援に熱心で、13年には起業家らが自由に参加できる支援組織「フレンチテック」を設立。参加企業から優れた技術や戦略を持つ企業を毎年選抜し、公共投資銀行が優先的に融資するなどの施策を行ってきた。結果、ロボットシステム分野で「エグゾテック(EXOTEC)」、再生エネルギー分野で「ライフ(Lhyfe)」といった企業が育ち、一定の成果を収めた。

それでも成功例がまだ少ないうえ、政府の審議会が昨年9月にまとめた報告書は「工場を建設すること自体にさまざまなリスクがある」ために、製造業を起こすこと自体が「最もリスキーと認識されている」と指摘。新たに製造に乗り出す企業への設備投資の支援が懸案だった。

民間資本がカギ
今後課題になるのは、大企業など、民間からの投資の呼び込みである。フランスは20年からのコロナ禍により、国内総生産(GDP)が最大で20%近く落ち込むなどの打撃を受けた。政府は、同年から200億ユーロ規模の企業減税を中心とする緊急経済対策をすでに実施し、財政的な余力がほとんど残されていない。事実、今回の支援策の多くは、官民が共同出資してプロジェクトを運営する「未来投資プログラム」の一環に組み込まれており、効果的に民間資本を呼び込めなければ、絵に描いた餅となる。

政府によると、フランスには現在製造業のスタートアップが約1500社あり、うち約700社が、社会的課題を大きく解決すると期待される「ディープテック」と呼ばれる分野である。こうした企業に秘められている潜在的な技術をいかに多く発掘し、支援することで、経済的な成長につなげられるかが注目される。スタートアップ支援のあり方を模索している日本のヒントにもなるだろう。

※本記事は 日刊工業新聞2022年8月5日号に掲載されたものです。

<執筆者>
内田 遼 CRDSフェロー(海外動向ユニット)

慶応義塾大学経済学部卒業。読売新聞記者などを経て、2022年1月より現職。主にフランスの科学技術イノベーション政策の調査を担当。

<日刊工業新聞 電子版>
科学技術の潮流(158)仏、新興製造業に23億ユーロ(外部リンク)