2022年7月15日

第156回「中国、基礎研究に投資強化」

人材不足・軽視
中国は「科学技術強国」を目指すものの、基礎研究の弱さが重要技術のボトルネックの根源にあるとの認識を持っている。その原因として、基礎研究に関わる投資や人材の不足、同分野に対する企業の軽視などが指摘されている。2018年には、国務院(日本の内閣に相当)が「基礎科学研究の全面強化に関する若干の意見」を発表し、学術分野の整備、人材育成の強化、企業の基礎研究強化促進などを示すなど、科学技術政策において重要課題と位置付けた。

さらに国家戦略である第14次五カ年計画(21-25年)でも、基礎研究費の増額、企業の基礎研究投資に対する優遇税制、「基礎研究10年行動計画」(策定中)の実施などの方針が明記された。

中国の研究開発費の多くは開発研究への投資であるが、基礎研究投資も増加しており、16年には約823億元(1元=16円、約1兆3168億円)、研究開発費全体の約5.2%であったが、21年には全体約2兆7864億元(1元=17円、約47兆3688億円)のうち約1696億元(約2兆8832億円)となり、約6.1%を占めた。第14次五カ年計画期間中は、全体の8%以上に引き上げるとしている。

企業も支援拡大
研究開発費の多くを開発研究に投じてきた企業も、大手企業に関しては基礎研究への投資を拡大している。22年4月、ネットサービス大手のテンセントは「新基石(基礎)研究員プログラム」を発表した。独創的なイノベーションに焦点を当て、科学者の自由な探求を奨励し、10年間で約200-300人に100億元(1元=20円、約2000億円)を投資する。「数学・物理科学」と「生物学・生物医学」を対象とし、実験タイプは1人当たり年間最大500万元、理論タイプは最大300万元を5年間支給する。22年は60人を選出するとしている。

同社の馬化騰CEOは、以前より、中国の基礎研究の遅れを指摘しており、産学官での連携の重要性に言及していた。18年には、45歳以下の若手基礎研究者を奨励する「科学探索賞」を設立し、数理物理学や生命科学など9分野の研究者、毎年50人に1人当たり年60万元を5年間支給している。

ネット通信機器大手のファーウェイも、18年に、今後は年間の研究開発予算150億-200億ドルのうち、20-30%を基礎科学研究に割り当てる旨を発表している。中国の基礎研究を支援する取り組みは、今後も強化・拡大することが予想される。動向を注視しつつ、わが国の基礎研究政策を検討していくことが重要であろう。

※本記事は 日刊工業新聞2022年7月15日号に掲載されたものです。

<執筆者>
吉田 裕美 CRDSフェロー(海外動向ユニット)

早稲田大学大学院人間科学研究科博士課程単位取得後満期退学。専門は移民研究および社会言語学。岡山大学で講師、ユニセフ東京事務所、在ノルウェー日本国大使館、国連大学勤務を得て、20年から現職。

<日刊工業新聞 電子版>
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