第153回「大学研究、インパクト可視化」
卓越性を評価
今年5月、英国の大学での研究を評価する「研究卓越性枠組み(REF)」の結果が公表された。7年ぶりとなる今回は、157大学の1878学部が提出した研究成果のリストに対して、それぞれの卓越性を専門家パネルが5段階で評価した。各大学はすぐに結果をウェブサイトで報告し、一部のニュースサイトはこれをもとに独自のランキングを作成している。
REFの目的は以下のように説明されている。①大学に対する研究資金の選択的配分の参考にする。②研究への公的投資の説明責任を果たす。③研究のベンチマーク情報と評判の尺度を提供する。資金の選択的配分を含めて大学に与える影響も大きいため、その評価方法は工夫が重ねられてきた。評価の対象は「成果(アウトプット)」、「インパクト」、「環境」の三つである。「成果」では、研究者につき1-4件の研究成果を評価する。18万を超える「成果」のうち、約82%が論文、約15%が書籍である。三つ目の「環境」では、博士号授与数や研究費収入などを評価する。
産学連携促進
前回の2014年版から導入され、REFの特徴となっているのが、学術を越えて広く社会に対してもたらす「インパクト」の評価である。これによって、産業界との連携を促すとともに、多様な分野の成果を評価しようとしている。ここでは、学部の規模に応じて定められた数のケーススタディーを、様式に従ってそれぞれ4ページほどにまとめる。対象となるのは、00年以降の研究成果の、13年以降のインパクトである。
REFの要項では、インパクトの種類や指標が領域ごとに具体的に例示されている。領域には、「人々の健康と幸せ」に加えて、「動物への配慮」や「環境」への影響も含まれる(表)。また、指標としては、社会的効果を貨幣価値に換算する「社会的投資収益率(SROI)」といった定量的なものに加えて、専門家による評判などの定性的なものも挙げられている。
日本でも、科学技術・イノベーション基本法に、あらゆる分野の知見を用いて社会課題に対応することが盛り込まれている。日本の国立大学法人評価でも「学術的意義」に加えて「社会・経済・文化的意義」についても記入できるようになっているが、英国の例も参考にして、研究のインパクトを可視化することがますます重要になるだろう。
研究成果のインパクトが具体的に詳述されたケーススタディー(6871件)は、22日に公開された。
※本記事は 日刊工業新聞2022年6月24日号に掲載されたものです。
<執筆者>
住田 朋久 CRDSフェロー
東京大学大学院総合文化研究科博士後期課程単位取得退学(科学史)。日本科学未来館、東京大学大学総合教育研究センター特任研究員、丸善出版、東京大学出版会などを経て、2020年より現職。
<日刊工業新聞 電子版>
科学技術の潮流(153)大学研究、インパクト可視化(外部リンク)