2022年6月17日

第152回「独、応用大学 地域拠点に」

人材育成 特化
ドイツでは、16年にわたるメルケル長期政権が終わり、2021年12月にショルツが首相に就いた。政権発足にあたってまとめられた公約である連立協定文書の研究開発イノベーションの項には、前政権からの継続である研究開発費対GDP比3.5%目標や国際連携の進展などとならび、地域のイノベーションシステムの中心として応用大学(HAW)の強化を図ると記されている(図)。

理論を学び研究に重点を置く「総合大学」に対し、応用大学は実践志向の教育を実施し人材育成に特化してきた。

60年代以降、高度な知識と技術を有する人材という産業界の需要に応え、モノづくりの国際競争力を支えてきたと言われている。従来、応用大学は工科、福祉科、メディア科などの単科大学であったが、現在は統合が進み複数学科を有する大学となっている。伝統的な総合大学と異なり、卒業までに企業での1学期程度のインターン実習が組み込まれていることも多い。修士論文は企業との共同プロジェクトで執筆するケースも認められている。

産業力強化
ドイツのエンジニア法に定められた「技術者」の定義は、大学で工学を学び卒業した者とされている。ドイツ技術者協会(VDI)によれば、昨年ドイツで工学部の修士課程を修了した3000人のうち、3分の2が応用大学出身者となっている。

欧州域内の大学制度標準化を目指すボローニャ改革に伴って、2000年代に入るころになると応用大学にも学士と修士の2課程が設置された。修士課程が整備されたことで、応用大学でも本格的に研究開発が推進されるようになった。しかし、博士号の授与は今でも原則として総合大学にのみ認められており、総合大学との連携でのみ応用大学での博士課程研究が可能となっているのが現状である。

新政権の狙いは、応用大学での研究開発をさらに促進し、もともと地域の中規模企業と関係の深い応用大学を地域のイノベーションエコシステムの中心に添えて産業力を強化することにある。先端技術分野だけでなく社会的イノベーションの創出において、大学の知見と現場の経験の融合の場として、地域の応用大学が期待されている。そのためにドイツ技術移転機構(DATI)を新設し、応用大学と比較的規模の小さい総合大学の研究開発を支援することが決まっている。22年度はひとまず1500万ユーロの予算措置がなされるが、詳細については今後の発表が待たれる。

※本記事は 日刊工業新聞2022年6月17日号に掲載されたものです。

<執筆者>
澤田 朋子 CRDSフェロー/ユニットリーダー(海外動向ユニット)

00年ミュンヘン大学政治学部大学院修了(国際政治学専攻)。帰国後はIT系ベンチャー企業でウェブマーケティング事業の立ち上げに参加。13年より現職

<日刊工業新聞 電子版>
科学技術の潮流(152)独、応用大学を地域拠点に(外部リンク)