第147回「半導体エコシステム 台湾、新興産業に活用」
存在感拡大
米中ハイテク覇権争いと新型コロナパンデミックは世界の政治経済情勢を一変させた。米中経済のデカップリング(分断)によってグローバルサプライチェーンが変容したことで、台湾への投資回帰が進んだ。台湾当局は2019年7月から、海外を拠点とする台湾企業による対内投資を促し、ハイテク分野を中心に累計で約6兆円の投資を受理した。
20年に起きたグローバルサプライチェーンの乱れと半導体不足の中で、台湾積体電路製造(TSMC)をはじめとする台湾の半導体受託製造(ファウンドリー)産業は業績を大幅に伸ばした。これらの結果、台湾はコロナ禍の中でも11年ぶりの記録的な経済成長率(6.28%、21年)を記録した。台湾当局は、今後も堅調な経済成長が続くと予測している。
近年、米国、中国、欧州、日本、韓国などの主要な国・地域が半導体製造の能力を獲得するために大規模な政策や財政出動を推進する動きとは対照的に、世界の最先端半導体製造のハブである台湾は、同じような半導体産業政策を打ち出していない。すでに民間のファウンドリーを中心とする製造エコシステムが存在し、それが機能しているゆえに、台湾企業が半導体サプライチェーンの全般にわたり存在感を拡大し、市場主導の好循環を生んでいるためと考えられる。
不可欠性 握る
台湾当局が展開しているイノベーション政策が、20年に打ち出した「6大核心戦略産業計画」である(表)。この計画では、台湾が保有する半導体産業エコシステムの強みを今後発展が期待される新興産業に生かそうとしている。
これらはいずれも半導体がコア技術であり、半導体サプライチェーンにおけるイノベーションの成功体験をもとに関連の新興領域に進出し、今後の世界経済にとってカギとなる産業をさらに生み出そうとしている。
台湾は、台湾海峡にみる地政学的なリスクや、深刻なエネルギーと人手の不足などの課題を抱えている。複雑で流動的な世界情勢の中、いかにして半導体エコシステムの強みを保ち、未踏の新興分野におけるイノベーションの創出を実現するかが、最優先の政策目標である。
次世代の産業においても、グローバルサプライチェーンにおける不可欠性を握ることが、戦略的に重要だと認識されている。
※本記事は 日刊工業新聞2022年5月13日号に掲載されたものです。
<執筆者>
張 智程 CRDSフェロー(海外動向ユニット)
台湾生まれ、京都大学博士(法学)。労働市場や科学技術イノベーションをめぐる法政策研究に従事し、京大大学院法学研究科助教、米ハーバード大学フェアバンク研究センター客員研究員、政策研究大学院大学台湾フェローを経て、19年秋より現職。
<日刊工業新聞 電子版>
科学技術の潮流(147)半導体エコシステム 台湾、新興産業に活用(外部リンク)