2022年4月15日

第144回「脱炭素、CO₂吸収が重要」

気候変動の影響が世界各地でますます大きな脅威となっている。カーボンニュートラルの実現のために温室効果ガスの排出を抑えていくことは必要不可欠であるものの、それだけでは足りない。今後は大気中の二酸化炭素(CO2)を吸収し、長期間貯留ないし固定するためのネガティブエミッション技術が重要な役割を果たす。

ブルーカーボン
私たちの身の回りでCO2を吸収してくれる最も代表的な例は、植物である。陸域では農地・森林からの農林資源、海域では沿岸部での海草などの水産資源がある。これらの活用もネガティブエミッション技術の一つとされている。水産資源によって固定される炭素はブルーカーボンと呼ばれる。

日本の農林水産資源のなかでは森林による炭素固定量が最も多い。これに対し沿岸部での炭素固定量は全体の数%程度と限定的である。しかし日本は他国と比較して国土に対する海岸線が長いため、そのポテンシャルには期待が大きい。

ブルーカーボンに関しては生態系の保全や海洋植物の増養殖技術の研究開発などが行われているが、そのような技術的な課題に加えてさまざまな社会的・経済的課題に取り組む必要もある。

認証制度
例えば今後大規模に展開していくには経済的合理性が課題になり、炭素クレジットと呼ばれる認証制度が重要になる。炭素を吸収させた側とその吸収量相当の炭素クレジットを購入する側の間で資金還流が可能となり、双方にとってのインセンティブになりうるためである。

日本では国が運用するJ-クレジットと呼ばれる認証制度がある。しかし、森林での炭素吸収量などが対象で、海洋関係は現段階では対象外となっている。そのため横浜市での独自のクレジット認証である「横浜ブルーカーボン・オフセット制度」や、ジャパンブルーエコノミー技術研究組合による「Jブルークレジット」などが補っている。

ここでは認証制度を中心に紹介したが、その他にも多様な課題とその克服に向けて取り組むべき研究がある。農林水産資源による炭素固定量の正確な把握や気候変動の影響を加味した将来変化の予測に関する研究、制度設計や政策に関する研究などは陸域と海域で共通の研究テーマである。

今後は、より大規模に実証していく上で必要な基礎研究や社会科学的な研究が、一層重要な役割を果たすだろう。

※本記事は 日刊工業新聞2022年4月15日号に掲載されたものです。

<執筆者>
徳永 友花 CRDSフェロー(環境・エネルギーユニット)

東京大学大学院工学系研究科建築学専攻修了。専門は建築環境工学。2019年より現職。工学基盤強化に向けた調査やバイオマスによるネガティブエミッション技術動向調査に携わる。博士(工学)。

<日刊工業新聞 電子版>
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