2022年4月8日

第143回「米、イノベ投資強化へ新組織 」

予算成立
3月15日、米国連邦政府の2022会計年度(21年10月-22年9月)予算が成立した。議会が可決した予算法案に、大統領が署名したものだ。総額は約1.5兆ドルで前年度比6%増であるが、インフレ率を考慮すると実質増は大きくないとの見方もある。

一方、研究開発の面では、同予算により新設された二つの資金配分組織が注目を集めた。一つは医療高等研究計画局(ARPA-H)、もう一つは国立科学財団(NSF)内の技術・イノベーション・パートナーシップ局(TIP)である。ARPA-Hはバイデン政権肝いりの構想で、国防高等研究計画局(DARPA)をモデルとしたトップダウン型のプロジェクトマネジメントを導入し、がんや認知症などの疾患研究において革新的な成果を生むことを狙いとしている。昨年来、ホワイトハウスはARPA-H設立構想に関する一連の討論会を開催し、研究者、企業、非営利団体や患者支援組織など多様な利害関係者と議論を深めてきた。今回の予算成立を受け、ARPA-Hの活動を具体化させていく予定だ。

TIPはNSFが30年ぶりに新設する局(研究支援プログラムを実施する部門)である。研究分野ごとに分かれた既存の局に対し、TIPはこれらの局と協働して分野横断的な取り組みを展開する。具体的には、人工知能、先進材料、バイオといった重要・新興技術を中心に課題解決型の研究開発を推進するほか、実用化や社会実装を促進するためのセクター間連携や人材育成も支援する。

社会課題対応
両組織に共通するのは、イノベーション志向の研究開発で社会的課題にアプローチする姿勢である。背景には中国との技術競争、新型コロナや気候変動への対応、重要インフラのセキュリティー対策など内外の課題に対する米国社会の切迫感もある。

先日バイデン大統領が発表した23年度の予算教書では、ARPA-Hに50億ドル、TIPには約9億ドルを投じる案が掲げられた。加えて議会では、NSFにおける戦略的な研究開発を拡大する法案の審議も進んでいる。

こうした取り組みは欧州などでも活性化している(本欄2月11日記事参照)。資金規模だけでなく、政策的位置付けや方法論も含め注視すべき動向といえる。

※本記事は 日刊工業新聞2022年4月8日号に掲載されたものです。

<執筆者>
長谷川 貴之 CRDSフェロー(海外動向ユニット)

JST入職後、地域事業、情報事業、国際事業、日本学術振興会出向などを経て、18年より現職。米国の科学技術政策動向調査を担当。

<日刊工業新聞 電子版>
科学技術の潮流(143)米、イノベ投資強化へ新組織(外部リンク)