2022年3月25日

第141回「バイオエコノミー支える農業」

大きな付加価値
バイオエコノミーの定義については、各国各機関など関係者間で一様ではなく、2009年の経済協力開発機構(OECD)による政策課題の提唱以降も進化を続けているのが実態である。例えば、EUは18年に、「バイオエコノミーは、廃棄物を含むあらゆる生物資源や生物の持つ機能・摂理を利用するすべての産業を網羅し、地上や海洋などのエコシステムや関連するサービスをも含む」と、12年度の定義から大幅に改訂した。

図は、EU圏のバイオエコノミーにおける付加価値を調査した結果であるが、農業は1次産業でありながら依然として大きな付加価値をもたらす産業であり続けている。これは農産物が、食料・飼料・加工食品・飲料だけでなく、バイオエタノールやバイオプラスチックなど、生物由来製品の重要な原材料であることに起因する。農業は人類生存に必須なのは言うまでもなく、バイオエコノミー発展とも不可分な関係なのである。

農産物の生物由来製品利用は食料と競合するため、競合回避には生産量拡大が必須の方法となる。農地拡大および面積当たり収量(単収)向上は、生産量拡大の手段であるが、生物多様性消失の加速、水・肥料他の天然資源消費拡大など、農業の持続可能性に対して強い負の影響を及ぼす。

計測とモデル化
このジレンマを解決する一手段として、新たな特性を付加した作物品種の開発がある。例えば、海外大手種苗会社では、草丈が既存ハイブリッドコーンの2分の1程度となる画期的な短稈ハイブリッドコーンの開発が行われている。この短稈新品種は、より少ない水・肥料での栽培が可能であり、かつ、高密度栽培による単収増加が可能である。

開発過程においては、遺伝子編集・遺伝子組み換え技術の他に、開発期間の短縮化を図るためゲノミックセレクションと呼ばれる基盤技術が用いられている。ゲノミックセレクションとは、ある作物のさまざまな品種のゲノム情報から、機械学習アプローチを用いて収量・品質等を予測・選抜する「計測とモデル化」技術の一つである。

わが国では、従来の交配法による数多くの水稲優良品種など、これまでに品種開発において高い実績を積み重ねてきた。今後、この実績を基にした新たな特性を持つ品種開発の高速化・効率化を図るために、農業場面における「計測とモデル化」技術の深耕化を行う必要性は高いと考える。

※本記事は 日刊工業新聞2022年3月25日号に掲載されたものです。

<執筆者>
用貝 広幸 CRDSフェロー(ライフサイエンス・臨床医学ユニット)

神戸大学大学院農学研究科修士課程修了後、住友化学に入社。農薬の研究開発、マーケティングなどに従事。2021年より現職に出向。ライフサイエンス領域の俯瞰調査、研究開発戦略立案を担当。

<日刊工業新聞 電子版>
科学技術の潮流(141)バイオエコノミー支える農業(外部リンク)