第140回「バイオエコノミー 新興技術の基盤整備重要」
30年92兆円市場
バイオエコノミーは、経済協力開発機構(OECD)が、将来の持続可能な経済成長に向けて、再生可能な生物資源を利活用した循環型の経済社会を拡大させる概念として提唱したものである。日本では2030年に世界最先端のバイオエコノミー社会を実現するための政策パッケージとして、バイオ戦略を発表し、30年には総額92兆円に市場規模を拡大することを目指すとしている。
光合成で生産される植物バイオマスは再生可能な生物資源であり、食料源でもある。植物バイオマスは、世界で消費される化石資源由来の化成品より2ケタ多い年間生産量があり、バイオ燃料や高機能バイオ素材、バイオプラスチックなどの石油代替品として使うことができ、新たな産業創出が期待できる(表)。
持続可能性
一方、植物バイオマス利用には、難しい面も多い。世界全体で排出される温室効果ガスの4分の1が農業分野や土地利用によるものであり、食料生産や植物バイオマス生産そのものが、農薬使用も含めて、大きな環境負荷となっている。また、植物バイオマスが蓄積する太陽光エネルギー量は、単位面積当たりで比較すると太陽光発電の2-3割程度であり、バイオ燃料やバイオマス発電などへの過剰な期待は禁物である。持続可能性を兼ね備えたバイオエコノミー社会の実現が望まれる。
ゲノム情報を利用した植物(作物)の育種やゲノム編集は、微生物を利用した合成生物学と共に、バイオエコノミー社会の実現に向けて大きな役割を果たしつつある。生産性が高いバイオマスの育種や遺伝子改変、付加価値の高い化合物を副生するバイオマスの作出などが行われている。
一方、従来の研究開発の枠組みでは対処が難しい課題もある。例えば、環境負荷を抑えるために化成肥料や農薬の使用を抑えて植物(作物)を生産するには、従来の共生・病害の概念では捉えきれない、植物(作物)と相互作用する多様な土壌微生物の機能の理解は不可欠である。バイオエコノミーを進展させるには、従来の技術開発を支援するだけでなく、メタボロミクス(代謝物の網羅的解析)やナノバイオテクノロジーのような、新興技術分野の基盤整備がより重要になるだろう。
※本記事は 日刊工業新聞2022年3月18日号に掲載されたものです。
<執筆者>
柴田 大輔 CRDS特任フェロー(ライフサイエンス・臨床医学ユニット)
京都大学大学院農学研究科博士課程修了、農学博士。(公財)かずさDNA研究所でバイオ研究に従事。2019年より現職を兼務。バイオ分野の俯瞰的調査を担当。京大エネルギー理工学研究所特任教授。
<日刊工業新聞 電子版>
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