2022年2月25日

第137回「タイ、国際科技協力 多角化 」

これまでタイは日本との経済的関係が深かったが、すでに最大の貿易相手国は中国となり、近年、電気自動車(EV)や第5世代通信(5G)などの産業で急速に中国などとの連携が深まりつつある。

EVで変革
アジアのデトロイトと標榜されるタイは、国外の自動車メーカーを受け入れることにより産業形成を図ってきた。中でも市場の9割シェアを日本勢が占めていたが、ガソリン内燃機関を基軸とした自動車産業は、EVの登場により100年に一度の変革期を迎えつつある。EV量産は異種メーカーの参入が容易なため、タイ投資委員会(BOI)は他国に拠点を奪われることを避けようと、多国籍企業などに投資支援策を打ち出し、EVや燃料電池車(FCV)導入に積極的である。

日本メーカーは現実路線のハイブリッド車(HV)やプラグインハイブリッド車(PHV)の量産を展開しているが、中国・韓国勢などはEV生産にカジを切りはじめている。上海汽車傘下のMGローバーは、タイCPグループと連携して、すでに安価なEVを輸入販売して市場を独占しており、2022年にはタイでも生産を始める予定である。また、長城汽車や重慶長安汽車もEVの投入とタイ現地生産を計画している。タイ石油公社(PTT)は、台湾の鴻海精密工業と連携し、23年にEVを生産開始する。今までの自動車生産は重層下請け(Tier)構造により多数の中小企業、労働者が従事して雇用を生み出していたが、EV導入はこの構図を大きく変えようとしている。

中国との連携
科学技術イノベーション全般についても、近年は中国との連携を深めている。17年、中国科学院はバンコク共同イノベーションセンターを設立した。さらに20年には、「中国・タイ・ASEANイノベーションポート」がチュラロンコン大学(バンコク)に設立された。産業界でも華為技術(ファーウェイ)が東南アジア諸国連合(ASEAN)で最初となる5G研究開発拠点をデジタル経済社会省と共同で新設、テストベッドをカセサート大学シラチャキャンパスに設置するなどしてデジタル技術の研究開発だけでなく人材育成を積極的に推進している。

中国はこれらの拠点を通じて質と量の両面で他国を凌駕し、スピード感を持ってタイへ、さらにはASEANへと進出している。今後、日本とタイがどのように科学技術分野で連携していくか、より戦略的な思考が求められるだろう。

※本記事は 日刊工業新聞2022年2月25日号に掲載されたものです。

<執筆者>
宮崎 芳徳 CRDS特任フェロー(海外動向ユニット)

東京大学大学院工学系研究科修士課程修了。米国スタンフォード大学PhD取得。工業技術院、産業技術総合研究所で、地球科学、エネルギー、科学外交などに従事。タイ国のNSTDA(科学技術開発庁)、TISTR(科学技術研究所)を経て、20年より現職。タイ在住。

<日刊工業新聞 電子版>
科学技術の潮流(137)タイ、国際科技協力を多角化(外部リンク)