第132回「スタートアップ 世界の成長けん引」
イノベと連動
世界のベンチャーキャピタル(VC)投資額は年々増え続け、2021年には6210億ドルを超え、前年の2倍以上となった。さまざまな分野において科学技術の進展とスタートアップの創設が急進的なイノベーションと大きく連動しているからだ。70年代、PCの黎明期には、マイクロソフト、アップルが設立された。バイオテクノロジーが誕生すると、ジェネンテック、アムジェンなどが設立され、世界有数の製薬企業となった。
90年代にインターネットが普及し、エヌビディア、アマゾン、グーグルが設立され、00年代にスマートフォンが出現するとフェイスブックが創設された。クリーンエネルギーが課題になるとテスラが設立された。いまや自動運転もテスラがけん引している。今般のワクチンもビオンテック、モデルナというスタートアップの科学技術によって実現した。
新しい科学技術が大学などから出てきても、大企業は急進的なイノベーションを起こしにくい。それを補うのがスタートアップの存在だ。設立10年以内で企業評価額が10億ドル以上のユニコーンは800社を超えた。世界の成長はこうしたスタートアップに支えられている。
エコシステム
大学などにおける研究力とイノベーション力は表裏一体だ。代表的なイノベーションの発祥地、シリコンバレーやボストンは80年代からスタートアップエコシステムを構築してきた。深圳やイスラエル、シンガポールのような新興勢力は海外資本で成り立っているといった地域特性がある。IT分野はビジネスモデルを核とした学生・教員発ベンチャーが多いのに対し、バイオは大学などの成果を用いた研究開発型ベンチャーが多いなど分野特性もある。欠かせないのは、従来の産学官連携のみならず、起業家、VC、インキュベーター、アクセラレーターといった起業化・商業化人材の集積と循環だ。
欧州は、日本同様大企業中心の文化だったが、欧州イノベーション・カウンシルを設立し、今般ディープテックに関するスタートアップ振興策が推進されている。バイオ分野に限って言えば、ビオンテック(ドイツ)などの成功を背景に、米国並みの投資水準となっている。世界的に、AI、ロボット、仮想現実(VR)・拡張現実(AR)、量子、宇宙、エネルギー、ブレーンテック、精密医療、合成生物学といった将来急進的なイノベーションを起こす可能性があるディープテックへの投資が盛んである。日本の成長には、環境整備・規制緩和と人材育成・国内外の人材流動に期待したい。
※本記事は 日刊工業新聞2022年1月21日号に掲載されたものです。
<執筆者>
島津 博基 CRDSフェロー
大阪大学大学院理学研究科修了。JSTでは産学連携事業担当を経て、情報、ナノテク・材料分野などで分野の俯瞰や研究戦略立案を担当。マテリアルズ・インフォマティクスの提言などを執筆。弁理士試験合格。
<日刊工業新聞 電子版>
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