第131回「EU、人文・社会科学との連携」
参画状況 可視化
2021年の「第6期科学技術・イノベーション基本計画」では、自然科学と人文・社会科学の融合による「総合知」で社会課題へ取り組む方向性が打ち出された。欧州連合(EU)でも、すでにその方向で実践が進んでいる。
欧州では科学政策の一つとしてRRI(責任ある研究とイノベーション)に取り組んでおり、研究開発に社会の幅広いアクターや視点を早期に取り入れることを求めている。その枠組みで人文・社会科学(SSH)と科学・工学との連携を深めることを、より良い技術開発を可能にする重要な要素として位置付けている。EUの研究・イノベーションのフレームワークプログラム(FP)は、連携を実現する施策としてSSHによる貢献が特に有益となる公募を呼びかける単位「トピック」にSSHフラグを付与し、参画の状況を可視化する仕組みを継続している。施策の評価を繰り返すことで、課題を把握し改善できる。また、学術コミュニティーが施策に協力して、課題や事例を共有し改善策を提案している。
予算配分 増加
FP「Horizon 2020」では14年から7年間の全トピック数の26%にSSHフラグを付与した。対象範囲も広い(図)。最新の実施報告では18年予算でSSHフラグ分が19億ユーロ、うちSSHを担当する組織への配分は4億ユーロで予算全体の5%に当たる。この金額は14年以降増加傾向にある。参画分野は経済学、政治学が多い。成功事例は、感染の脅威に対するグローバルな社会科学者のネットワークを構築したソナーグローバル、アーティストと研究機関との協働を実現したスターツ エコシステム、近現代芸術の修復と長期保存のためのナノ材料を開発したナノリスタートなど、多岐にわたる。「研究開発」だけでなく「調整と支援をする活動」にも支出する。社会実装に向けた活動に取り組みやすいことも特徴だ。
一方で、研究方法や専門用語の違い、評価パネルにおけるSSH専門家の不足、などの課題が指摘されている。
複雑化する社会問題の解決に向けて自然科学と人文・社会科学の融合は不可欠である。EUの実践も踏まえ、日本でも多様な主体が専門性を合わせてイノベーションの実現に取り組む必要がある。
※本記事は 日刊工業新聞2022年1月14日号に掲載されたものです。
<執筆者>
山本 里枝子 CRDSフェロー(企画運営室)
早稲田大学理工学部電子通信学科卒、富士通研究所にてソフトウエア技術の研究開発に従事。システム技術研究所所長、富士通研究所フェローを経て21年より現職。博士(ソフトウエア工学)、日本学術会議会員。
<日刊工業新聞 電子版>
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