2021年12月24日

第130回「健康データ収集・利活用 個別化医療・予防 実現へ」

集合知を構築
新型コロナ対応により、日本で健康・医療データの利活用が進んでいない現実が露呈した。一方、海外では数多くのデジタルヘルススタートアップが誕生し、多額の資金を集める。また、アップル、グーグルなどのビッグテック企業も、ウエアラブル計測や医療機関との提携を通じて健康・医療データの収集を模索する。彼らが狙うのはデータを活用した革新的な医療・ヘルスケアサービスの実現である。

例えば、医療機関では人工知能(AI)画像診断のような診断の効率化や精度向上、がんゲノム医療(がんの遺伝子変異を調べ、一人ひとりに合わせた治療を行う)を始めとした個別化医療が進みつつある。医療機関外でも、スマートウオッチの心拍・心電計測による不整脈の兆候の検知や、リキッドバイオプシー(血液や尿に含まれる核酸や分子の計測)による早期がん検出が実装され始めている。

これらの研究開発には、個人の画像・分子などの身体計測データと診断・治療結果がひもづいたデータセットを用いる。一個人のデータだけから何かを判断するのは難しく、まずは各個人のデータを束ねた集団のデータを準備し、統計解析や数理モデル、機械学習などを駆使して集合知を構築、さらにその妥当性・有効性を評価する必要がある。

課題克服 支援
予防のための集合知構築には、加えて生活・環境因子や遺伝因子も統合したデータの準備が重要で、その代表的な手段がコホート・バイオバンクである。手間やコストがかかるため主に公的資金で運用されるが、グーグルが1万人を対象にゲノム情報、オミクス、ウエアラブルなどのデータを5年間収集するなど、米国を中心にスタートアップが先行投資として大規模に情報を収集する例も見られる。

ゲノム情報や血液検査などを利用した疾病リスク判定サービスが登場しつつあり、究極的にはデジタルツインを駆使した超個別化予防が実現するかもしれない。

日本では、全国で個人情報保護法制が乱立する「2000個問題」がネックであったが、昨今の法改正で解消の目途が立ちつつある。新型コロナとデジタル庁発足を機に、法的・倫理的課題の解消と合わせ、データ収集・連携における技術的課題の克服を目指すボトムアップの取り組みの支援が急務ではないか。

※本記事は 日刊工業新聞2021年12月24日号に掲載されたものです。

<執筆者>
宮薗 侑也 CRDSフェロー(ライフサイエンス・臨床医学ユニット)

東京大学大学院新領域創成科学研究科博士課程修了、博士(科学)。計測機器企業にて製品開発に従事。2020年より現職に出向。生命科学系計測や医療機器の俯瞰的調査、健康・医療データ活用に関する調査を担当。

<日刊工業新聞 電子版>
科学技術の潮流(130)健康データ収集・利活用 個別化医療・予防実現へ(外部リンク)