2021年12月17日

第129回「市場規模見合う電力消費に」

デジタル化 進展
デジタル化の進展により世界のデータ通信量は2020年で10年比17倍と指数的増加をしている。そのデータ処理の要であるデータセンターの年間電力消費量(推定値)は10年間にわたり世界の総電力量の約1%、ほぼ200テラワット時(テラは1兆)を維持している(図参照)。

一方、過去を振り返るとデータセンターなどの情報通信技術(ICT)の電力消費量が爆発的に増加すると幾度となく言われてきた。これは推定に必要な関連データや推定方法自体の問題に加えて、ICTの電力消費に関する報告書の一部を切り出したセンセーショナルな記事がそれを過剰に広めたことによる。また当時の状況も踏まえて考えると温暖化に絡めた電力問題への対応、ICT分野への環境政策の必要性、さらにはICTがもたらす急速な社会変化に対する不安や懸念などの問題を電力問題にすり替えてきたようにも思える。

高効率化 必須
「デジタル化の進展で将来の電力消費量はどうなるか?」は誰も分からない。しかし、例えばデータセンターの電力消費量が10年間で10倍以上に急増するとの予測も過去にはあったがそれはNOと言えよう。データセンター施設や電力設備など、リードタイムが必要な物理的インフラの10倍の増強は簡単ではない。また世界のデータセンターの市場規模が現在492億ドルと言われる中で200テラワット時の電力コストは仮に10円/キロワット時として200億ドル近い金額となり、大きなコストである。長期的にはデータセンター市場の拡大が予想されるが、需要拡大にはコスト削減、すなわち高効率化は必須となる。これを考えれば電力消費量が経済合理性に反して一方的に増加することは考えにくい。新たな価値創造と高効率化を含む技術進化が共に進展しながら、結果として市場規模拡大の投資に見合った電力消費量になると考える。

デジタル化による電力消費増加はエネルギーの観点からは課題かもしれないが、例えば一人ひとりの多様な幸せが実現できる社会の創造という別な観点からはプラスとなる。むしろデジタル化の未来はデジタル化がもたらす社会的・経済的格差や対立などのマイナスの側面をどのように解決していくかということにかかっていると考えている。

※本記事は 日刊工業新聞2021年12月17日号に掲載されたものです。

<執筆者>
尾山 宏次 CRDSフェロー(環境・エネルギーユニット)

東京大学大学院工学系研究科修士課程修了。石油会社で主に自動車燃料品質などの研究開発に従事。14年より現職。環境・エネルギー分野の研究開発戦略立案を担当。博士(工学)。

<日刊工業新聞 電子版>
科学技術の潮流(129)市場規模見合う電力消費に(外部リンク)