2021年12月3日

第127回「EU、デジタル主権確保へ 」

DX 最優先課題
世界中でデジタル変革(DX)の重要性が叫ばれている。欧州連合(EU)も例外ではなく、EUは2015年ごろからデジタル関連の政策や戦略を相次いで打ち出してきた。行政府である欧州委員会の新体制発足に伴い、19年に発表された今後5年間の政策ガイドラインでも、DXはグリーン化と並ぶ最優先課題に位置付けられている。

20年の新型コロナウイルスのまん延によりEUでは国際物流が滞り、半導体部品の供給が不足するなど、米国やアジアをはじめとした域外への技術依存があらわとなった。これを受け、特にデジタル分野の主要技術で海外に依存せず、EUとして「デジタル主権」の確保が必要不可欠と認識された。

こうした中、EUは21年3月にDXを推し進めるため「2030デジタルコンパス」という戦略文書を発表。今後10年を「デジタルの10年」と位置付け、DXを通じて自らのデジタル主権を実現すべく、スキル、デジタルインフラ、ビジネスのDX、行政のDXという4テーマについて30年までの達成目標を示した。具体的には「情報通信技術(ICT)の専門家を現在の840万人から2000万人へ」「最先端半導体の世界シェアを現在の2倍の20%以上に」などの目標が挙げられている。

独自の戦略
EUの特徴として、全体の基本政策が各プログラムに明確に反映されていることが挙げられる。DXについても、研究開発、スキル育成、インフラ開発など目的の異なるプログラムの予算を活用し、相乗効果を生み出すことで、目標達成を目指している(表参照)。

加えて、国際的な規制づくりでもEUは強みを持つ。欧州委員会は20年12月、グーグルやフェイスブックといった巨大プラットフォーマーへの規制措置などを盛り込んだ「デジタルサービス法」と「デジタル市場法」を提案した。これらは人権・自由・平等といった欧州の価値観を中心に据えつつ、デジタル市場での公正なルール設定を意図しており、米中とは異なるアプローチで、EUの存在感を高めようとする動きと言える。

複数のプログラムを通じた域内のDX促進と、国際的なルールづくりという両面からのデジタル主権確保を進めるEU。DXを重要課題に位置付ける日本にとっても、EUのこうした戦略から学べることがあると考える。

※本記事は 日刊工業新聞2021年12月3日号に掲載されたものです。

<執筆者>
山村 将博 CRDSフェロー(海外動向ユニット)

東京工業大学大学院社会理工学研究科修了。08年JST入構。国際事業担当、産学連携事業担当を経て、NPO法人STSフォーラムに出向し、国際会議運営業務に従事。18年11月より現職。

<日刊工業新聞 電子版>
科学技術の潮流(127)EU、デジタル主権確保へ(外部リンク)