2021年11月19日

第125回「仏、研究者自ら政策関与」

5つの研究連合
フランスには公的研究機関・大学が加盟する研究連合(アリアンス)という仕組みがあり、国の研究イノベーション政策に深く関わっている。現在、エネルギー、ライフサイエンス、情報通信技術(ICT)、人文社会、環境の5分野のアリアンスが組織されている。

2008年、中長期の研究イノベーション国家戦略立案が開始されたとき、国が投資する長期的視野での研究イノベーション政策の立案に際して、一部の集団に限らない広く集められた研究者と政府が共同して戦略を構築するために設置された。政策の方向性に対し専門的知見を述べ、計画に落とし込む役割を、各アリアンスは柔軟な組織を生かしつつ、政府や資金助成機関である仏国立研究機構(ANR)と共同で担う。

加盟機関に所属する全研究者が活動に参加しうる。各機関が代表の研究者を討議の場に送り、研究者自ら研究イノベーション政策に関与する。

日本には類似の組織はないが、学会や工業会の役割がこれに比較できる。

主要機関が参加
環境アリアンスを例にとると、国立農学・食料・環境研究所や国立海洋開発研究所、仏気象局に加え、多くの大学と混成研究ユニットを運営する国立科学研究センターが参加しており、大学の研究者も参加する。加盟数26を数え、国内のめぼしい研究機関がほぼ揃(そろ)うので、定期的な理事長会議はトップ間の貴重な情報交換の場にもなっている。

コロナ禍のロックダウン時には、研究現場でのさまざまな問題点や解決策をめぐり活発な意見交換があったと聞く。

活動内容は①科学的方向性、研究インフラ、国際的枠組みへの国内案、新興テーマ、技術移転やイノベーションをめぐる意見の集約②分野別・横断的研究課題の意見の集約③集約された意見の政府、産業界、大学との共有などである。横断的課題では各機関から俊英の研究者が選ばれる。

19年末に「自然災害とリスク」をテーマにANRとともに過去に国が支援した研究テーマのリストを検討、今後新たに支援していくべき課題として環境アリアンスが提示した「持続可能性科学」はANRの22年計画の横断的研究の七つの柱の1番目となっている。

※本記事は 日刊工業新聞2021年11月19日号に掲載されたものです。

<執筆者>
八木岡 しおり CRDSフェロー(海外動向ユニット)

明治学院大学文学部フランス文学科卒。安田信託銀行(現みずほ信託銀行)退職後に渡仏、ブルゴーニュ大学通年講座修了。日本アルカテル・ルーセントで国内製造業向け販売に従事。在日フランス商工会議所勤務を経て17年より現職。

<日刊工業新聞 電子版>
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