2021年11月5日

第123回「研究インテグリティー 米で議論・対策 活発化」

連邦政府の動向
研究のオープン化、国際化の世界的な進展に伴い、外国の影響による研究システムの健全性の毀損や技術流出などのリスクが顕在化しており、研究セキュリティー・インテグリティーの強化が必要であるという認識が国際的に広まっている。特に世界的にもオープンで国際的な研究環境を有し、科学技術分野でも中国との摩擦が高まっている米国では、トランプ政権期からバイデン政権期に継続して、この問題に関する議論や対策が活発に行われている。とりわけ連邦政府の資金配分機関は、研究者の利益相反に関する情報の開示規定を相次いで強化している。

ホワイトハウスの科学技術政策局(OSTP)は、トランプ政権期に作成された研究セキュリティー・インテグリティーに関する大統領覚書を実装するため、年内に新たなガイドラインを作成・公表する方針を示している。このガイドラインでは、連邦政府全体で統一的なルールを規定し、連邦政府から年間5000万ドルを超える研究開発費を得ている研究機関に対し、研究セキュリティーに関するポリシーの策定を義務付けることも予定されている。

現場の変容
連邦政府による一連の規制強化に対応して、全米の大学は研究者の利益相反や責務相反に関する情報開示の要請に協力している。さらに主要な研究大学では、研究セキュリティー・インテグリティー体制を自主的に強化する動きも目立ってきている。

ハーバード大学、カリフォルニア大学、マサチューセッツ工科大学などは、研究者に意識喚起のためのトレーニングを実施し始めた。また、大学執行部による国際活動の統括管理監督を果たす役割を相次いで強化した。さらに留学生や外国人研究者の受け入れと国際共同研究の実施に対する精査や、輸出管理体制および特許・発明の保護などの強化を講じ始めている。

年内に公表されるOSTPガイドラインは、大学現場の研究セキュリティー・インテグリティー体制の導入を一層促すと予測できる。

日本政府も研究インテグリティー強化の方針を打ち出しており、研究現場での体制強化が課題になっている。米国のほか諸外国で先行する動向を注視し、日本も適切な検討が重要だろう。

※本記事は 日刊工業新聞2021年11月5日号に掲載されたものです。

<執筆者>
張 智程 CRDSフェロー(海外動向ユニット)

台湾生まれ、京都大学博士(法学)。労働市場や科学技術イノベーションをめぐる法政策研究に従事し、京大大学院法学研究科助教、米ハーバード大学フェアバンク研究センター客員研究員、政策研究大学院大学台湾フェローを経て、19年秋より現職。

<日刊工業新聞 電子版>
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