第118回「独、基礎研究でイノベ創出」
世界最先端
ドイツのマックス・プランク協会は1948年に設立され、昨年までに20人のノーベル賞受賞者を輩出する卓越した基礎研究の成果を生み続けている機関である。さまざまな分野の86の研究所に約2万1000人の職員がいる(2020年現在)。研究者は約1万4000人で、うち外国人は47%で極めて国際化が進んでいる。
前身組織であるカイザー・ヴィルヘルム協会(1911年設立)の初代会長アドルフ・ハルナックが定めた、所長となる研究者のために研究所を設立し、去るときに研究所を閉鎖するというハルナック原則の理念は今も続いている。現在では複数所長体制のため研究所自体が閉鎖される例はないが、所長が率いる部門は定年に際し一度解散する。当該部門の科学的価値を判断し部門の改廃や新規設置で、世界最先端かつユニークな研究を実施する研究所としての質を保持している。
ナチスに協力して国家戦略や軍事技術に資する研究を積極的に推進したという歴史を二度と繰り返さないために、公的権力から自立し、いかなる差別からも距離を置いて科学を促進することが協会規約に明記されている。
産業界と連携
基礎研究を促進するマックス・プランク協会は産業との距離が遠いように思われがちだが、子会社のマックス・プランク・イノベーションが、研究所で発明・発見された成果を評価・分析し、特許の取得や起業の支援は70年頃から行っている。
さらに16年にはバーデン・ヴュルテンベルク州と合同で人工知能(AI)拠点サイバーバレーを整備した。マックス・プランク知能システム研究所が中心となり、工学に強いシュトゥットガルト大学とロボティクスなどの領域で、また医学や法学・哲学で知られるチュービンゲン大学と機械学習などの研究で連携している。サイバーバレーはマックス・プランク協会、同州、ダイムラーやボッシュといった名だたる産業パートナーが合同で1.65億ユーロを準備した上で、研究開発に750万ユーロ(18-22年)の大規模な資金が投じられている。
従来、マックス・プランク協会は積極的に産業界と連携をしてきたわけではないが、高いレベルの基礎研究成果を基に破壊的・急進的なイノベーションを起こそうとしており、AIのような戦略的分野における連携は日本の産業界にとっても大いに参考となるだろう。
※本記事は 日刊工業新聞2021年10月1日号に掲載されたものです。
<執筆者>
澤田 朋子 CRDSフェロー/ユニットリーダー(海外動向ユニット)
00年ミュンヘン大学政治学部大学院修了(国際政治学専攻)。帰国後はIT系ベンチャー企業でウェブマーケティング事業の立ち上げに参加。13年より現職。
<日刊工業新聞 電子版>
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