2021年9月24日

第117回「独研究機関、産学と密に連携」

企業ニーズ把握
研究の実施機関としてドイツでは大学とならび公的研究機関の役割も大きい。本連載では出口に近い応用研究を担うフラウンホーファー機構と世界レベルの基礎研究を推進するマックス・プランク協会に焦点を当て、産業界と研究機関の連携について解説する。

フラウンホーファー機構は1949年に設立された。現在はドイツ国内に75の研究所、約2万8000人の職員を抱え、主として中小企業の研究開発を支えている。研究所のほとんどは大学の敷地内に立地しており、9割を超える所長が教授を兼任するなど大学と密接な関係にある。研究所の年間予算の約3分の1が民間企業からの研究委託費で、残りは運営費交付金と政策にひもづいた競争的資金で構成されている。

連邦制を採るドイツでは州政府の権限が強く、特に産業や教育は州政府の所掌である。それゆえ州によって産業の特色が異なっていて、産業技術の研究開発需要にも大きな差がある。大学と地域産業の間に位置して企業の研究開発ニーズを把握し、界面となって需要に応えているのがフラウンホーファー研究所という図式である。

頭脳の技術移転
企業からの研究委託費を研究所予算の約3分の1になるように獲得すると、翌年の運営費交付金が増額される。この仕組みは「フラウンホーファーモデル」と呼ばれ、73年から続いている。各研究所が継続して民間の需要に応えていければこのボーナスを持続的に得られるというスキームだ。増えた分の運営費交付金は5年後、10年後の委託に備えて、新技術の開発や先端研究といった自発的な取り組みに投資される。こうして研究力を維持し、所属する研究者をやる気にさせるモデルであるといえる。

また、フラウンホーファー機構全体で3500人ほどの博士課程学生が在籍しており、その約8割が学位取得後、産業界に就職する。委託元企業の研究開発課題にじかに触れながら先端技術の研究活動をした彼らは、産業界で即戦力として重宝されている。フラウンホーファー機構はこれを「頭脳による技術移転」と呼び、高度な専門性の高い人材を供給するという役割を果たしている。これらの特徴的な二つの要素が両輪となって地域産業に貢献する組織として機能し、産学の密接な連携の土台となっている。

※本記事は 日刊工業新聞2021年9月24日号に掲載されたものです。

<執筆者>
澤田 朋子 CRDSフェロー/ユニットリーダー(海外動向ユニット)

00年ミュンヘン大学政治学部大学院修了(国際政治学専攻)。帰国後はIT系ベンチャー企業でウェブマーケティング事業の立ち上げに参加。13年より現職。

<日刊工業新聞 電子版>
科学技術の潮流(117)独研究機関、産学と密に連携(外部リンク)