第114回「SDGs、世界益と国益の結合」
STI変革必須
2015年の国連の持続可能な開発目標(SDGs)の決議には、17のゴール達成に向けた科学技術イノベーション(STI)への大きな期待と推進体制が詳述されている(STI for SDGs…技術促進メカニズム、フォーラム、国連機関チームなど)。一方、科学技術界では、SDGsを「途上国援助」「国際協力」として捉え、「先端でなくローテク」「論文にならない」など、自分とは「関係ない」ものとして捉える向きが多かった。
しかし決議から5年を経て状況は大きく変わり、国連に加えて経済協力開発機構(OECD)など科学技術政策の専門機関が積極的に対応している。
この動きは“SDGs for STI”という新しい概念で総括できる。専門家会合の議論の中から生まれたこの概念は“STI for SDGs”は大前提としつつも、SDGs達成のために求められるSTIの価値観や方法の変革を強調している。そこには、STIが従来の延長でいいのかという深い反省と歴史観に基づく変革への意志がある。
6つの変革提案
どのような変革がSTIに求められるのか、いくつか提案や行動を紹介する。
①科学と政策と社会の架橋の強化。昨年来のコロナパンデミック(世界的大流行)は、政治家・市民に科学技術の重要性を認識させたが、その限界や不確実性、関係者間のコミュニケーションの欠如をあらわにした。おのおのの役割と能力の向上、科学的助言システムの再設計と信頼の再構築が必須。
②世界―地域(アジア、アフリカなど)―国―地方のダイナミックな関係強化。空間の規模と地域特性を踏まえたSDGsの実践事例・方法の蓄積・共有と、地方でのSTI for SDGsの推進と多様な価値観・文化の重視。
③経済・環境・社会・ガバナンスの新しい価値観に基づく企業戦略と投資戦略(ESG投資)、公的セクターの調整能力向上と公私の混合ファイナンス、新自由主義的なマクロ経済政策の転換、国際ルール作り。
④国際学術会議(ISC)などアカデミーの変革と活動拡大…科学の変革と社会課題対応、理系文系連携強化に向けて、18年に国際科学会議(ICSU、理工系)と国際社会科学協議会(ISSC)が歴史的に合併。
⑤ミッション志向STI政策、学際共創、ファンディング・ファイナンス改革など、分野や組織の境界を越える連携とステークホルダーの参画。
⑥社会変革と人間重視に基づく人工知能(AI)、ビッグデータ(大量データ)など新技術の開発実装と倫理的ルールの確立。
SDGsは21世紀の社会課題解決、国際協調の側面とともに、国益の追求、将来の市場開拓戦略につながる面を持つ。社会変革や生活の質を強調する日本の新しい科学技術・イノベーション基本法と第6期基本計画はSDGsの流れに共振しているが、世界戦略を視野に入れたその実践が重要になる。
※本記事は 日刊工業新聞2021年8月27日号に掲載されたものです。
京都大学大学院理学研究科修士課程修了、科学技術庁(現文部科学省)入庁。政策研究大学院大学客員教授、国際高等研究所チーフリサーチフェロー、OECDプロジェクト共同議長、科学技術外交推進諮問会議委員、内閣府自動運転サブプログラムディレクター。
<日刊工業新聞 電子版>
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