2021年7月23日

第109回「「研究開発の俯瞰報告書」より② IT進化 多面的に検討」

情報技術(IT)は、さまざまな分野の問題解決や新産業創出を加速する、汎用的な技術分野である。新型コロナウイルス感染症の拡大にあたっては、デジタル革新の有効性が世界各国で認められ、ITの重要度は増す一方である。

ものの自律化
IT分野の進化は、三つの潮流で捉えることができる。一つ目は「あらゆるもののデジタル化・コネクティッド化」である。いまや人々の暮らしには、ITが浸透してきている。スマートフォンやウエアラブルデバイス、スマート家電など、身の回りのさまざまなものがデジタル化され、ネットワークにつながるようになっている。

二つ目は「あらゆるもののスマート化・自律化」である。あらゆるものがデジタル化・コネクティッド化されることにより、人々の行動データが大量に収集されるようになった。人工知能(AI)の機能や性能が向上することによって、これらビッグデータ(大量データ)の効果的な解析が可能になり、新しいサービスやアプリケーション(応用ソフト)が多数生み出されるようになってきている。

社会への影響
近年顕在化してきたのが、三つ目の潮流である「社会的要請との整合、人間の主体性確保」である。ITは広く社会に浸透し、私たちの生活になくてはならない存在になっている。一方で、ITが社会に与えうる負の側面が、無視できなくなってきている。

例えば会員制交流サイト(SNS)は個人から幅広い企業や組織まで普及し、さまざまな場面で活用されるようになった。一方、SNSやインターネット上にあふれる情報は必ずしも客観的に正しいものばかりではない。新型コロナ感染症が拡大する陰で、根拠のない予防方法や治療薬、人々の不安をあおる不確かな情報があふれた。このようなデマやフェイクニュースの拡散は、人々の思想や世論をも左右する社会問題にまで発展しており、ITを活用したサービスや情報そのものへの不信感を招いている。

健全かつ安心・安全な社会を築いていくため、IT技術にはさまざまな期待や要請が寄せられている。一方で、技術的な解決だけを追い求めると、独り善がりとなり、必ずしも良い結果にはつながらない。

IT分野の発展が加速する中で、科学技術がもたらす倫理的・法的・社会的な問題を常に意識し、社会制度のあり方や、人々の価値観や心理面なども併せた、多面的な観点での検討が必要である。

※本記事は 日刊工業新聞2021年7月23日号に掲載されたものです。

井上 眞梨 CRDSフェロー(システム・情報科学技術ユニット)

慶応義塾大学大学院理工学研究科修了。JST戦略的創造研究推進事業において研究推進業務に従事後、2019年より現職。システム・情報科学技術分野の俯瞰や研究開発戦略立案を担当。

<日刊工業新聞 電子版>
科学技術の潮流(109)「研究開発の俯瞰報告書」より(2)IT進化、多面的に検討(外部リンク)