2021年6月25日

第105回「SDGs達成へSTI活用」

動き出した各界
「このままだと地球が大変なことになる」。1987年生まれの筆者が小学生のころから聞かされ続けた警告だが、今「本当だったな」と実感する。「平年並み」が無意味になった気温、毎年の気象災害、口にしづらくなった食材。それらを通して、気候と生態系の異変を肌身に感じるようになった。しかし、「先進国の都合で途上国の経済活動を制限できるの?」というロジックに無力感を覚えた当時と違って、今はSDGs(国連の持続可能な開発目標)の時代だ。世界は貧困や格差の解消と地球環境を両立する目標群を共有した。今の10-20代は、筆者の世代よりも強い危機感と希望を、同時に持ち合わせているように見える。

研究開発に従事する人たちも、SDGsと無縁どころか主役級のステークホルダーだ。科学技術イノベーション(STI)がSDGs達成の主要な手段(STI for SDGs)の一つだし、持続の危機にひんしている人間活動には当然、研究活動自体も含まれる。

STIコミュニティーは動き出している。国連のSTIフォーラム(5月28日付掲載コラム参照)をはじめとした各種の国際組織によるプラットフォーム構築やイニシアチブ。近年、ESG(環境・社会・企業統治)の観点で大きく経営や投資行動を変容させている産業界。200を超える学内の研究・教育活動をSDGs登録プロジェクトとして可視化した東京大学をはじめ、大学や公的研究機関の取り組みも増えてきた。

求められる変革
基礎研究の重要性は変わらない。ただ、環境・社会・経済の持続可能性のためにSTIを活用するには、技術シーズを産業応用するという従来のやり方では間に合わないし、逆効果すら生みうる。産学官を超えて共通の課題に挑む「ミッション志向型STI政策」への転換や、技術の倫理・法・社会的含意(ELSI)をあらかじめ考慮する重要性など、この間議論されてきたSTIの在り方に関する変革を、基礎研究の体力を守るためにもSDGsは求めている。

科学技術振興機構(JST)もSTI for SDGs推進のための研究プログラム実施や広報・啓発活動など組織を挙げて取り組む。今春にはリポート「SDGs達成に向けた科学技術イノベーションの実践」を公開した。ゴールまでの依然大きな落差をSTIの力でどう埋めるか。鳴り続ける警鐘に硬直せず、しなやかに考え、話し、行動したい。

※本記事は 日刊工業新聞2021年6月25日号に掲載されたものです。

丸山 隆一 CRDSフェロー(企画運営室)

東京工業大学総合理工学研究科修士課程修了。出版社勤務を経て2020年より現職。21年3月公開のリポート「SDGs達成に向けた科学技術イノベーションの実践」の編さんに参画。

<日刊工業新聞 電子版>
科学技術の潮流(105)SDGs達成へSTI活用(外部リンク)