2021年6月4日

第102回「ITRI 台湾のイノベ支える 」

ハイテク中小
近年、台湾の科学技術イノベーション力が世界から注目されている。最先端半導体製造拠点であり、昨年から続くコロナ禍ではデジタル民主主義の浸透によるパンデミック対策が最も成功した事例の一つとして脚光を浴びた。その中心的な役割を果たしている組織の一つが、公的研究開発機関である台湾工業技術研究院(ITRI)である。

ITRIは1973年に台湾経済部(日本の経済産業省に相当)直轄の研究所を統合し創立された後、半導体受託製造世界最大手の台湾積体電路製造(TSMC)をはじめ、これまでに約3万件の先端技術の特許開発支援や累計318社のITRI発ハイテク企業の育成に成功を収めてきた。

ITRIの研究開発活動の特徴は、基盤的な研究から応用開発まで広いレンジの科学技術をカバーすることである。ITRIの説明によれば、対象とする研究開発の技術成熟度(TRL)はレベル3「技術コンセプトの実験的な証明」からレベル8「システムの完成および検証」である。

中小企業を主体とした産業構造を持つ台湾の中でも世界的に競争力のある中小ハイテク企業が誇る技術特性を生かした研究開発を支援してきた。グローバルなバリューチェーンにおける台湾の位置付けを確固たるものとし、限られた資源を最大限効率的に活用するために、多角的・戦略的な研究開発を実施している。

高い情報収集力
ITRIは次の四つの要素①世界的な科学技術のトレンド分析②台湾当局の産業・科学技術イノベーション政策動向把握③10年後のグローバルマーケットの需要予測④台湾のイノベーションエコシステムで交わされる情報の収集―から総合的に判断して次世代の重点研究開発課題を抽出している。台湾の特徴を生かし小規模で顔の見えるイノベーションネットワークが構築されているため、「こうした情報網を通じて産業界の研究開発需要を的確に把握できていることが成功の要因である」と、副院長の張培仁氏は分析している。

2020年11月、ITRIは今後10年間の「2030技術戦略ロードマップ(2030技術策略與藍圖)」を公表した。デジタル変革(DX)から超高齢化社会、グリーンテクノロジーなど世界共通の研究開発トレンドに乗る一方で、引き続き最先端半導体製造拠点の強みを生かして、台湾を世界で最もイノベーティブなテクノハブとすることを目指している。

※本記事は 日刊工業新聞2021年6月4日号に掲載されたものです。

張 智程 CRDSフェロー(海外動向ユニット)

台湾生まれ、京都大学博士(法学)。労働市場や科学技術イノベーションをめぐる法政策研究に従事し、京大大学院法学研究科助教、米ハーバード大学フェアバンク研究センター客員研究員、政策研究大学院大学台湾フェローを経て、19年秋より現職。

<日刊工業新聞 電子版>
科学技術の潮流(102)ITRI、台湾のイノベ支える(外部リンク)