2021年5月28日

第101回「科技イノベでSDGs達成」

ロードマップ
ニューヨークのイースト川沿いに位置する国連本部。コロナ禍以前は学童たちが連日訪れ、歴代事務総長の写真が並ぶロビーにて、国連の歴史や役割を教わる姿があった。国連の持続可能な開発目標(SDGs)達成に向けた科学技術イノベーション(STI)の活用のため、この国連本部では毎年5月にSTIフォーラムが開催されている。

世界中から政府、産業界、学術界、非政府組織、国際機関などが集い、SDGsに向けたSTIの取り組みや教訓を共有し、連帯感を醸成してきた。コロナ禍により今年はオンライン開催となったが、例年と変わらぬ熱い議論が交わされた。17の開発目標の進捗状況とともに主要テーマとなったのが、SDGsのためのSTIのロードマップの策定と実践である。

ロードマップの必要性は、2016年の第1回STIフォーラム以来毎回議論されてきたが、SDGsへの遅れを挽回し、計画を加速するためますます重要視されている。

4手段統合
これは単なる技術ロードマップではなく、ガバナンス、経済とファイナンス、個人と集団の行動、科学技術の四つの手段を統合して、グローバル、国、地域、セクターレベルでSDGsに向けたイノベーションを実現するための実行計画である。

ロードマップ策定のガイドブックを作成し、これに準拠したパイロットプログラムが6カ国(ガーナ、ケニア、エチオピア、インド、セルビア、ウクライナ)で始まった。日本はガイドブックの作成に貢献し、パイロットプログラムのパートナー国として協力してきた。

各国は食料、健康、エネルギー、産業育成などの優先課題を取り上げ、それぞれの状況や伝統、文化に配慮しつつ検討を進めている。

日本は現在、SDGsランキングで世界17位に位置付けられている(20年)。気候変動や生態系の破壊、経済の停滞、格差の拡大、ジェンダー、資源循環など多くの課題を抱える。先述の四つの手段を統合したロードマップの策定と実践を通じて自国の課題を確実に克服していくことで、世界のお手本になるべきである。

筆者が国連「10人委員」を務めた3年間でも、日本への期待を肌身に感じてきた。最終的なイノベーションの担い手は企業だが、政府、地方行政、大学、市民社会との連携が不可欠だ。持続可能で誰一人取り残さない社会の実現は、現在に生きる我々全員の責務である。

※本記事は 日刊工業新聞2021年5月28日号に掲載されたものです。

中村 道治 JST顧問

大阪府出身。日立製作所執行役副社長、取締役などを経て、11年-15年科学技術振興機構(JST)理事長。現在同顧問。今年5月まで3年間、国連10人委員会委員を務める。日本工学アカデミー会員。

<日刊工業新聞 電子版>
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