2021年5月21日

第100回「「総合知」創出で社会変革」

2020年の科学技術基本法の改正後初となる第6期科学技術・イノベーション基本計画が策定された。同計画が科学技術の創出・活用と社会変革を同時に進める方向性を打ち出したことは注目される。

価値産み出す
そうした取り組みはすでに始まっている。「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」による自動走行プロジェクトなどは好例だろう。科学技術が産み出す社会的な価値も考慮して、誰がどう使うのか、ルールはどうあるべきかの検討も併せて進んでいる。

一方、スマートシティープロジェクトでは自治体を中心にこれからのコミュニティー作りの挑戦が進む。今後はこのような関連する施策同士をかみ合わせる取り組みが必要になるだろう。今、世界の科学技術政策関係者の間では各国の事例を集めた学び合いが始まっている。

望ましい社会作りに向けて、問題の設定から研究開発、成果の実装、評価まで、多くのステークホルダーが関与し、取り組みの意義を共有する。このような研究開発を進めるには、深い専門知を追究する研究者のみならず、専門知をつないで価値創造につなげる研究者の存在が欠かせない。

動向を俯瞰
また、研究開発の成果が個人の生活様式や行動にも影響を及ぼすので、成果の使われ方も研究して社会システム側の備えを進める必要がある。一般市民も研究開発に関与することでより望ましい成果を享受できるはずだ。企業にとっても共有価値の創造(CSV)の機会を開くだろう。

政策側にもイノベーションが求められる。昨今、エビデンス・ベースの政策形成の重要性が指摘され、数値目標や達成度評価が流行だ。今後は、人々の望む価値の創出に向けて「エビデンス」の意味を吟味することや、種々の施策を連動させ、効果を見ながら柔軟に運用するアジャイルなアプローチも必要になるだろう。政策担当者と研究現場の対話がますます重要になる。

望ましい社会作りに向けて「総合知」を創出・活用しようとする新たな動きは、従来の科学的な価値を追求する研究や産学連携による研究開発を否定するものではない。研究開発動向の俯瞰的な把握がますます重要になるはずだ。こうした知見を自在に活用しながら、これまでに確立されてきた制度や慣習を乗り越えて、新しい挑戦のフロンティアを開くことを期待したい。

※本記事は 日刊工業新聞2021年5月21日号に掲載されたものです。

倉持 隆雄 CRDS副センター長

東京大学大学院理学系研究科修士課程修了。旧科学技術庁(現文部科学省)に入庁して科学技術行政に従事。文科省研究振興局長、内閣府政策統括官(科学技術・イノベーション担当)などを経て15年より現職。

<日刊工業新聞 電子版>
科学技術の潮流(100)「総合知」創出で社会変革(外部リンク)