2021年4月2日

第95回「複数年研究計画法 仏、研究者を長期支援」

4つの柱
2020年末、フランスは「複数年研究計画法」を成立させた。本連載では2回にわたり解説していく。国の予算の複数年計画法は日本ではなじみがないが、フランスでは軍事予算で前例がある。本法で政府研究開発予算を21年の4億ユーロ増から10年間で段階的に総額250億ユーロ(3兆1250億円。1ユーロ=125円換算)増やしていく。長期的かつ持続的な研究開発支援を図ることが狙いだ。

法律を構成する四つの柱は①研究キャリアの魅力向上②国立研究機構(ANR)を介した競争的資金ならびに大学と公的研究機関への助成増額③研究者の起業・兼業を含む研究成果の社会への還元④研究付随業務の簡素化からなる。

②のANRについては、昨年9月に発表されたポストコロナ経済対策1000億ユーロ「復興計画」からの支出分2.82億ユーロも合わせ、21年予算は前年比55%増の11.9億ユーロとなる。

これまで日本や他の欧州諸国に比べ見劣りする研究予算でありつつ一定の成果を上げているフランスの研究者の待遇改善に向けて、まずは画期的な一歩となるだろう。これにより18年に総研究開発投資対GDP比2.2%にとどまるフランスは、EUが02年に設定した3%という目標に到達する見通しである。目標到達は仏政府の長年の懸案事項だった。

起業で活躍
研究キャリアの魅力向上(①)については本連載の別の回に譲り、今回はもう一つの眼目である研究成果の社会への還元(③)について説明する。

本法には、これまで研究活動上の業績として評価されなかった公的研究機関の研究者の民間への出向・技術移転・起業などの活動を積極的に業績として評価し、報酬改善のインセンティブ提供も可能とすることで、研究者の動機付けを促進、研究者の兼業促進も図る施策が盛り込まれた。

起業支援はフランスの重点施策であり、仏政府はこれまでも公務員である公的研究者の起業を可能としたアレグル法や、労働時間の50%を企業活動に使用可能としたパクト法を施行してきているが、本法による整備で現在の年160件から10年後の500件程度の研究者による起業を目指す。卓越した研究者が起業家として、あるいは公的研究機関や大学のみならず企業において兼業という形を取りながら、自由に活躍する可能性がさらに広がった。

※本記事は 日刊工業新聞2021年4月2日号に掲載されたものです。

八木岡 しおり CRDSフェロー(海外動向ユニット)

日本アルカテル・ルーセント真空機器事業部で真空ポンプの国内製造業・分析機器業界向け販売に従事。在日フランス商工会議所勤務などを経て17年より現職。共著書に「フランスの科学技術情勢」。

<日刊工業新聞 電子版>
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