2021年3月19日

第93回「ナノテク 新型コロナ対策」

ナノマテリアル
ナノテクノロジーは少なくとも一つの次元でナノメートル(ナノは10億分の1)のスケールを持つ材料やデバイスを作り上げていくという革新的な科学技術であり、この技術の進展によりさまざまな新規ナノマテリアルやデバイスが開発されてきた。21世紀の初頭からはこうしたナノマテリアルをバイオや医療に応用するナノ医療研究が活発に展開されてきている。

このような背景のもとで新型コロナウイルス感染症が私たちの生活、社会活動に大きく影響する全世界的な問題として登場してきた。この緊急の感染症問題に対してナノマテリアル、デバイスがどのように貢献できるかについて最近議論が進んできている。

感染症に応用
ナノマテリアル、デバイスの感染症対策への貢献について図を参照していただきたい。高感度かつ高速でのウイルス検出法は最近マイクロアレイチップ、センサーデバイスなどを用いてさまざまなものが開発されている。また精密にデザインした構造膜やナノポア(ナノ孔)などを使ったウイルス除去法も注目に値する。さらに光触媒などのナノマテリアルを使ったウイルス不活化はコロナ感染症対策に役立つ重要な研究である。

新型コロナウイルス感染により血小板凝集による血栓が身体中に起きるが、その高感度検出技術が開発されてきている。そして英米で接種が開始されたワクチンにおいてはRNA(リボ核酸)デリバリーというナノテクノロジーが使われている。

私自身は特殊なX線とガドリニウム担持多孔性シリカナノ粒子を用いて電子を放出させるがんの新規放射線治療を開発しているが、最近、この方法により新型コロナ感染細胞を壊して肺炎の症状を抑える可能性について検討を始めた。

将来への展望としては現在急速な展開を見せている分野との連携を考える必要がある。例えば、スーパーコンピューター「富岳」を用いたシミュレーションによる感染分析と治療薬の開発は急速に進んでおり、また治療技術の進展による医療機器の小型化、ロボットの活用による遠隔治療も展開されてきている。こうした動きを視野に入れたナノマテリアルの感染症への応用など広い視点での議論が行われることを期待したい。

※本記事は 日刊工業新聞2021年3月19日号に掲載されたものです。

玉野井 冬彦 CRDSフェロー(ナノテクノロジー・材料ユニット)

京都大学高等研究院特定教授、カリフォルニア大学ロサンゼルス校分子遺伝学部教授。東京大学卒、名古屋大学博士号。ハーバード大学医学部、コールド・スプリング・ハーバー研究所、シカゴ大学を経て、現職。

<日刊工業新聞 電子版>
科学技術の潮流(93)ナノテク、新型コロナ対策(外部リンク)