2021年3月12日

第92回「研究インテグリティー 開放性・国家安保 両立」

技術流出を懸念
オープンイノベーションやオープンサイエンスといった研究のオープン化や、国際共同研究の増加や頭脳循環の強化などの国際化が進展しており、国際的にも国内的にも開かれていることが活力ある研究システムのために不可欠なものとなっている。一方で、オープンな研究システムが不当に利用される事例の多発から、技術流出などを通した国家安全保障への悪影響が及ぶとともに、研究システムの健全性が毀損されるのではないかという認識が共有されつつある。

これらは研究データや知的財産など研究の成果をターゲットとする「外国の影響」として米国を中心に盛んに論じられている。特に中国の影響が中心だ。

米国化学界の大家であるハーバード大学のリーバー教授が、中国「千人計画」に参加している事実を政府当局に隠避したことで、虚偽陳述の罪で逮捕されたのは記憶に新しい。

「千人計画」自体は海外人材採用プログラムであるが、米国政府が公表している契約内容には、プログラム参加の隠避、米国での研究内容や知的財産の中国研究機関への移転などが含まれている。

また、中国人民解放軍の身分を隠して米国に入国するビザ詐欺などのスパイ関連容疑での逮捕例も後を絶たない。

こうした事案に対して、輸出管理強化などが検討されているが、近年の科学技術の進歩に伴い民生技術と軍事技術の境界が曖昧になる中で、先端的・萌芽的な研究にまで規制の適用が拡大する可能性が懸念されている。

健全・公正性確保
これに対し米国立科学財団による委託調査報告書であるJASONレポートが一つの参照点となっている。問題に対し規制ではなく「研究インテグリティー」の強化で対応できるとしている。

インテグリティーという語は「社会的信頼」「尊厳」「らしさ」といった意味合いのほか、マネジメントシステムを機能させる上での手段に着目すれば「自らを一体の統合されたものとして健全に律するさま」とも捉えられる。

また、わが国では研究公正と訳されることが多い研究インテグリティーは、定義としては定まったものはないが、総じて研究者や研究機関が責任ある行動を通して研究環境の健全性・公正性を確保することと捉えうる。

研究コミュニティーは、これまでも研究の自由や開放性を基盤とする科学の進歩のため、研究の捏造・改ざん・盗用を研究不正として処罰することをはじめとして多岐にわたり発展させてきた。JASONレポートでは、研究インテグリティーを強化するため、研究上の責務相反や利益相反の完全な開示を求めていくべきだと提言している。

わが国の「統合イノベーション戦略2020」においても「研究インテグリティー」が挙げられている。研究コミュニティーがこの問題を研究システムにも関わる自身の問題として捉えていくべきものと考える。今後活発な議論が望まれる。

※本記事は 日刊工業新聞2021年3月12日号に掲載されたものです。

宮地 俊一 CRDSフェロー(科学技術イノベーション政策ユニット)

東京工業大学大学院生命理工学研究科修了、文部科学省入省。科学技術イノベーション政策における基本政策、調査分析・研究、EBPMのほか、人材政策、医療研究などを担当。20年より現職。

<日刊工業新聞 電子版>
科学技術の潮流(92)研究インテグリティー 開放性・国家安保 両立(外部リンク)