2021年2月26日

第90回「コロナ禍の経済回復 科学技術貢献に期待」

GDP大幅減
世界全体の新型コロナウイルス新規感染者数は2020年3月から4月には欧米を中心に、6月から7月にかけてはインドやブラジルなどの新興国で、10月以降は世界的に急増した。今年に入り減少しているが、今後の動向は予断を許さない。感染症を封じ込めるため、昨年3月には世界各国で営業、外出などが厳しく制限された。

英オックスフォード大学の研究チームが各国政府の対策の厳格さを点数化した指数(平均値)は、3月に急上昇した。4月下旬以降、制限の緩和に伴って低下してきたが、11月以降はやや上昇している(図参照)。

感染拡大と政府による行動制限は各国経済に大きな打撃を与えた。最近公表された国際機関による経済見通しでは、20年の世界のGDPは3%半ばから4%程度の減少と、リーマン・ショックを超える大幅なマイナス成長となっている。地域別には、例えば感染をいち早く抑制し景気対策や情報機器などの輸出に支えられた中国がプラス成長を維持したのに対し、冬に再び厳しい対策を行った欧州では大きなマイナス成長となり、特に観光業への依存度が高い南欧などで厳しい状況となっている。

新分野に誘導
感染症の抑制が必要となることから、景気回復の条件としても科学技術に注目が集まっている。

前述の国際機関の見通しでは、21年の世界経済は4-5%程度の高い成長率が見込まれているが、同年中に先進国や主要な新興国でワクチンが普及することなどが前提とされている。ワクチンの普及のタイミングや有効性・安全性に関するリスクの存在も指摘されている。

ワクチン普及までの間、感染を抑えて経済への影響を軽減するため、消毒・除菌の徹底や社会的距離を保つ行動などの対策が重要である。感染しやすい状況や感染経路に関する疫学的情報、ウイルスを含み空中を漂う飛沫の動きに関するシミュレーション、数理モデルによる感染者数の予測などの科学的知見は早い段階から対策の検討に用いられているが、研究の進展を反映したより効果的な手法としていくことが望まれる。

大きなショック後の経済回復では、成長力の高い新たな分野に投資や労働を誘導していく視点が重要である。各国でデジタル化や環境投資を今後の成長分野の柱として打ち出しているが、経済政策としての対応とともに新たな技術の貢献が期待されている。

※本記事は 日刊工業新聞2021年2月26日号に掲載されたものです。

酒巻 哲朗 CRDS上席フェロー

1987年東京大学経済学部卒、同年経済企画庁入庁。15年内閣府経済社会総合研究所総括政策研究官、17年財務省財務総合政策研究所副所長を経て19年より現職。

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