2021年2月19日

第89回「DBTLサイクル 微生物生産 効率高める」

自動最適化
合成生物学とデジタル技術によって、微生物生産に新たな潮流が生まれている。

古来より人類は経験的に微生物の力で酒類や食品を作ってきた。その後、科学的に微生物により抗生物質やアミノ酸などの有用物質を製造する発酵技術が開発されてきた。

近年では環境負荷の低い持続可能な製造方法として期待され、デオキシリボ核酸(DNA)やたんぱく質を組み上げていく合成生物学的アプローチによる植物由来の生理活性物質などの生産を目指した研究開発が精力的に進められている。

生物の生合成経路を模倣して有用物質を生産する際には、設計・構築・評価・学習のサイクル(DBTLサイクル=図)を回して、最適なプロセスに到達させることが必要であり、効率的なデータ取得と解析が課題となっている。

2018年に英マンチェスター大学は、ポリフェノール前駆物質の生産を題材に「自動DBTLサイクル」を世界で初めて実証した。まずは、独自ソフトウエアにより出発原料となるアミノ酸から前駆物質の合成に必要な4段階の反応の酵素遺伝子を植物などから選抜。4種類の遺伝子の発現バランスなどから考えられる2500種類以上の組み合わせの中から実験計画法により16種類に絞ってDNA配列を設計。合成DNAを導入した大腸菌を構築。培養実験による評価。評価結果から改良のポイントを学習。このサイクルを自動化した。さらに1サイクルの最適化および培養条件などの改良により、最終的には最初の設計から生産効率が500倍向上した生産経路の確立に成功した。

この事例は自動DBTLサイクルの適用が生産プロセスの開発に有効であることを示しており、今後の変革の方向性を明示している。

VB 存在感示す
合成生物学を駆使した生産菌の構築に強みを有する米国を中心としたベンチャー企業は、日本を含む世界中の企業との提携により存在感を示している。彼らは共同開発で生み出された新製品の売り上げに応じたライセンス収入を得るなどにより大きな収益を上げ、企業価値評価額が40億ドルを超える企業も出現している。

わが国は微生物生産においては世界に勝る技術基盤を有している。

産学官の連携によりデジタル技術を積極的に活用して、発酵技術の新たな姿を示すことが期待される。

※本記事は 日刊工業新聞2021年2月19日号に掲載されたものです。

小泉 聡司 CRDSフェロー(ライフサイエンス・臨床医学ユニット)

東京大学大学院農学系研究科修士課程修了、博士(農学)。化学メーカーにて微生物を用いたモノづくりに従事。2020年より現職。ライフサイエンス・バイオエコノミー関連分野の俯瞰調査・政策提言の作成に従事。

<日刊工業新聞 電子版>
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