2021年1月29日

第86回「EU、大型研究プログラム始動」

7年間で12兆円
欧州連合(EU)の科学技術政策の中心である第9期研究・イノベーション枠組みプログラム「Horizon Europe(HE)」は、2020年12月に政治的合意に至った。18年6月の提案から、実に2年半に及ぶ議論を経てのことだった。HEの予算総額は、コロナ対応を目的とした復興基金からの54億ユーロも合わせ、21-27年の7年間で955億ユーロ(約12兆円)となった。14-20年に実施されていた前身の「Horizon 2020」の748億ユーロと比べ、3割弱の予算増である。

HEは、第1の柱「卓越した科学」、第2の柱「グローバルチャレンジ・欧州の産業競争力」、第3の柱「イノベーティブ・ヨーロッパ」、それに「参加拡大と欧州研究圏拡大」から構成される(図表)。

最先端の基礎研究支援から、気候変動をはじめとする社会課題解決、デジタル分野や材料分野などにおける産業競争力強化、さらには中小・ベンチャー企業によるイノベーション創出促進まで幅広いプログラムを設けている。中でも、第2の柱に全体予算の5割以上が配分されており、社会課題解決に資する取り組みに力点が置かれている。

社会課題に重点
EUは19年12月に発表した「欧州グリーンディール」で、50年までの温室効果ガス正味排出量ゼロを目標に掲げ、さまざまな支援施策や戦略を打ち出している。その一環としてHEに期するところは大きく、HEの全体予算の35%(約4.2兆円)は気候変動対策に充てられる。

また、HEでは社会課題の解決を目指すミッション志向型プログラムが新たに導入された。「がん」「気候変動への適応」「海洋・水」「気候中立・スマートシティー」「健全な土壌・食糧」の5領域について、それぞれ30年までに達成すべき野心的な目標を設定し、その実現に向けた取り組みを進める。従来の研究・イノベーション活動への支援のみならず、市民との共同活動や規制改革、他のEUプログラム・政策との連携などさまざまな手法を組み合わせ、課題解決を目指すことが特徴である。

HEではこうした活動を進める上で国際協力を重視しており、EU以外の国もプログラムに参加できる。昨年1月にEUを離脱した英国は、通商協定の合意を受け、HEに参加することとなった。

社会課題解決に向け、欧州全体として世界に存在感を示すことができるか注目したい。

※本記事は 日刊工業新聞2021年1月29日号に掲載されたものです。

山村 将博 CRDSフェロー(海外動向ユニット)

東京工業大学大学院社会理工学研究科修了。08年JST入構。国際事業担当、産学連携事業担当を経て、NPO法人STSフォーラムに出向し国際会議運営業務に従事。18年11月より現職。

<日刊工業新聞 電子版>
科学技術の潮流(86)EU、大型研究プログラム始動(外部リンク)