2021年1月15日

第84回「ポストコロナ DXでシステム分散化」

グリーン社会
菅総理が2020年10月26日の所信表明演説の中で、日本の成長戦略の柱として、グリーン社会を実現し50年までに温室効果ガス排出を日本全体で実質ゼロにする、と宣言した。それに向け、経済産業省を中心に7府省連携でグリーンイノベーション戦略推進会議が設置され、検討が進められてきた。

50年の社会を考えた場合、現在とは非連続なものとなる可能性がある。よって、未来のあるべき姿を想定し、そこからバックキャストした技術・社会システム変革のための研究・開発・投資を進めていくことが必要になる。

さらに日本は化石資源の賦存量のみならず、再生可能エネルギー獲得においても量的な期待ができない。このような中でエネルギーのベストミックスを考え、カントリーリスクをヘッジし、さらには国富を流出させないための技術開発やコスト最小化、海外マーケットの獲得が重要となる。

また、未来は不確実であるので、複線的なシナリオを持ち将来起こりうる事態に柔軟に対応することも必要である。仮に当初見込んでいた技術開発が時代の進行とともに失敗となった場合も、これを許容し国策を適宜見直し、ガラパゴス化させてはいけない。

分散化進む
ポストコロナ社会において、多様な局面での分散化が進んでいくと考えられる。これまでのように中央集約型の都市あるいは産業ではなく、デジタル変革(DX)によるネットワーク化・分散化されたエネルギーシステムや情報通信、物質生産が重要となる。

昭和を支えてきた高炉や常圧蒸留装置・ナフサ分解装置を最上流とする産業は、しなやかに形を変えてオンデマンド化・分散化に向けて変革していく必要がある。一方でエネルギー源の大部分は、再生可能エネルギーの時代になっても大部分は海外に頼らざるを得ない。

このような中で私たちは、グローバルとローカルの両方をバランス良く見据え、わが国独自の技術が大きな目標の実現に貢献できるよう基礎研究の成果をいち早く社会実装できる環境を整備し、基盤的研究を育み、50年に向けたグリーンイノベーションの担い手となる人材を育てていくことが重要である。

※本記事は 日刊工業新聞2021年1月15日号に掲載されたものです。

関根 泰 CRDSフェロー(環境・エネルギーユニット)

早稲田大学理工学術院先進理工学研究科教授・教務主任。東京大学大学院工学系研究科博士課程修了。同助手を経て早稲田大学。専門は触媒化学。グリーンイノベーション戦略推進会議ワーキンググループ座長。

<日刊工業新聞 電子版>
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