2020年12月25日

第82回「感染症に強い国づくり 統合的研究を推進」

相互作用の結果
2019年12月、中国・武漢に端を発した新型コロナウイルス感染症の世界的流行が始まり、はや1年が経過しようとしている。感染者数は既に5000万人を超え、いまだ感染拡大に歯止めがかからず、世界は終わりの見えない感染症との戦いの最中にある。

感染症制圧には、根本的解決策である病態の解明、予防・治療法の確立が急務であることは自明であるが、並行して検査・医療体制の強化、経済・社会活動への対応といった感染症危機管理対策を迅速かつ柔軟に進めることの重要性を認識することとなった。私たちは今回の新型コロナウイルス感染症危機から多くを学び、今後も起こり得る感染症危機への対応に生かしていかなければいけない。

科学技術振興機構(JST)研究開発戦略センター(CRDS)では、今回の新型コロナウイルス感染拡大を感染症研究・行政について再考すべき機会と捉え、今後の感染症に関する研究推進体制のあり方について提言を行うべく、医科学・生命科学、公衆衛生学、社会科学などの研究分野から、また自治体・保健・医療の現場から有識者を招いてワークショップを開催、議論を行った。感染者によって重症度が大きく異なり、人種間での重症化の違いも示唆される新型コロナウイルス感染症は、感染症がヒトと病原体、両サイドからの要因が影響し合う相互作用の結果であることを明確にした。

社会に広く発信
迅速なワクチン・治療薬開発に向けて、微生物学・免疫学をはじめとする多様な領域の基礎研究者、ヒト・病原体双方のゲノム情報やオミックス情報を取り扱うデータサイエンティスト、病気を知る臨床医が協働しながら、臨床検体の解析を中心に感染症の病態解明を推進することが重要である。さらに、感染症危機対策では、さまざまな領域の人文・社会科学研究が重要であることも鮮明となった。

感染症危機時には、社会(国や自治体)も私たち市民も、不確定な科学的情報しかない中で判断を迫られ、行動しなければならない。科学だけでは答えることのできないトランスサイエンスの問題であり、人文・社会科学研究領域の専門家も含めた統合的な研究を推進、社会に広く発信し、社会・市民の理解・支援を得ながら感染症対策を考えていくことが重要であるという結論に至った。詳細は、CRDSのウェブサイトで公開している報告書を参照されたい。

※本記事は 日刊工業新聞2020年12月25日号に掲載されたものです。

立川 愛 CRDS特任フェロー(ライフサイエンス・臨床医学ユニット)

国立感染症研究所エイズ研究センター室長。東京大学医学部保健学科卒、東大医科学研究所先端医療研究センター感染症分野准教授を経て、15年より現職。専門はウイルス学、感染免疫学。博士(医学・東大)。

<日刊工業新聞 電子版>
科学技術の潮流(82)感染症に強い国づくり、統合的研究を推進(外部リンク)